ステージ#4:終了

#4:バックステージ

「ステージの結果について、クリエイターからのコメントをお伝えします」

 あまりよくない傾向だと思うが、裁定者アービターの声を聞くとちょっと安心する。以前は機械的で何の感情も感じられないと思っていたのだが、今なんて事務的かつ冷静な秘書セクレタリーと話しているような印象だ。まあ、秘書を持つ身分になったことがないので、本当のところは判らないが。

「今回のステージは特に広範囲であり、かつ調査すべき項目も例外的なものであったが、調査方法が極めて粗雑であり、必要最低限にも満たない情報しか収集できていない。特にホーエンブルク・アム・シュヴァーベンゼーとリッツェル島における調査は極めて不十分であり、キー・パーソンズからの情報収集も不完全である。ターゲットを確保できたのは他の競争者コンテスタンツの行動に乗じた偶然の結果の域を出ない。また、今回も憶測に基づく言動が極めて多かった。調査を入念に行い、その結果に基づいた演繹的な推理によってターゲットを推定するべきである。特筆すべき点は特になし。以上です」

 今回はどんな評価を受けても文句が言えない。“極めて”という言葉が何度も出てきたのはショックが大きいが、おおむね自覚している。そして指摘されたとおり、ターゲットが確保できたのは偶然の産物だ。ただ、天才のハーレイ氏でも最後の最後までターゲットが何か、どうすれば手に入るかに気付かなかったのに、俺みたいな凡人は“必然的に”偶然に頼らざるを得ないじゃないか、というくらいの言い訳はしたい。

「先ほどのステージに対する質問を受け付けます」

「今回のターゲットは、二人以上が入手できる可能性があったんじゃないか?」

 退出前に訊いて却下された質問なので、もう一度訊いておく。

「ありません」

 即答だな。だったら、あの時答えてくてりゃよかったのに。まあ、そうなったら追加で質問するんだけどさ。

「しかし、例えば俺ともう一人の競争者コンテスタントが協力した場合、二人とも王女から叙勲される可能性もあったはずだ」

「ターゲットの頸飾カラー自体が一つしかありません。よって二人に与えられたり分けられたりすることはありません。これは共謀を防ぐためです」

 なるほど。オリンピックの“友情のメダル”のように二人で半分ずつ分けるわけにはいかないということか。

頸飾カラーが授与されるのに他に方法はあったのか?」

「お答えできません。未回収のシナリオの内容については言及できません」

 ああ、やっぱりね。でも、俺以外の競争者コンテスタントが王女と適切な会話をしていたら、他のイヴェントが発生していたんじゃないかという気がする。屋根の上に昇りたいっていうおかしなものじゃなくてさ。しかし、こうやって独り合点するのも俺の悪い所なんだろうなあ。フットボールの時でも、サイド・ラインからのコールの意図を勘違いしたときに限って、パスをインターセプトされたりしてるからな。

「俺はターゲットを“盗む”ために色々と調べていたんだが、今回は結局盗むんじゃなかった。その目的を明らかにせずにステージを開始したのは不親切じゃないか?」

「ターゲットがあなたに授与されるまでに、盗むことが可能な時間帯がありました。情報を適切に収集していれば、その時間が発生することも推論可能でした」

 イーデルシュタインから王女の館まで頸飾を運んでくる間ってことか。何ともピンポイントな。2時間しかないだろ。いや、ローラ・シュローダーが王女の使いを襲ったりせず、地下トンネルで潜んでいれば、それができた可能性もあるか。

「しかし、それには王女の性格を読み切っている必要があるな」

「ステージ内にはそれを推論するための十分なヒントがありました」

 やっぱりあちこちで王女のエピソードを調べるべきだったんだな。それと、勲章が授与される条件か。きっととんでもない前例があったんだろう。王女のお転婆な性格はきっと遺伝だから、過去に同じような破天荒な王女がいたんだろうさ。

「結局、王女の脚の病気は治るのか?」

「お答えできません」

「丘の城の地下室の鍵をぶっ壊したのはローラ・シュローダーだったのか?」

「お答えできません」

「彼女は単独の競争者コンテスタントだったのか?」

「お答えできません」

「マリーとルドルフの恋のストーリーに続きはあったのか?」

「お答えできません」

「レッティンゲルから他にどんな情報が聞き出せたんだ?」

「お答えできません」

「湖底トンネルが掘られたのは何年前なんだ?」

「お答えできません」

 うん、全部答えてもらえないのは解ってる。だが、何となくまだ次のステージに行きたくなくて、時間を稼いでいるだけだ。次のステージは、どうにも自信がない。今までのやり方を根底から改めないとターゲットを手に入れられないような気がしている。ステージを終える前に、ハーレイ氏にカウンセリングをしてもらえばよかったな。

「他に質問がなければ、次のステージに移ります」

 わざと何も答えなかった。これも時間稼ぎの一つだ。10秒ほどが経過し、再び裁定者アービターの声が降ってくる。

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