ステージ#2:第6日
#2:第6日 ファイア!
第6日-1955年5月5日(木)
D93、通称ブラージュ街道は車や
左手の木立の切れ目のようなところを入る。門柱の残骸のようなものがあり、砂利の小道はまるで安っぽい駐車場への進入路のようだ。南側の一段高くなったところに、廃墟のような建物が見えてきた。これが
男は足音でこちらの気配に気付いたようだが、この段差は飛び上がることができないので、砂利道を通り抜けてバスティテッド通りへ至る。教会がいったん、木立で見えなくなる。それから南へ坂を50ヤードほど上がり、改めて教会の取り付け道から入っていった。長身で垂れ目でコールマン髭の男がこちらを睨んでいる。
「
一喝されたので立ち止まる。もちろんメルシエ警視だが、物騒なことに拳銃を構えている。撃つつもりなのだろうか。ルール違反じゃないのか。
「
判っているくせに、訊かないで欲しい。しかも、いちいち外国人なんて指摘しないでくれるかな。いつの時代のフランス人なんだよ。あんたも未来人なんだろ。
「ここの教会を見に来た」
「こちらは警察だ。昨日、サン・トロペの聖堂で宝石の盗難があって、犯人がこちらの方へ逃げたというので捜している。外国人の男だということだ。今から身体検査をさせてもらう」
「協力したいところだが、まずは身分証を見せてくれ」
それらしきものを出してきてちらりと見せたが、遠すぎて本物かどうかよく判らない。合衆国じゃあ、受け取って見てもいいという暗黙のルールがあるんだがな。まあ、たぶん本物だろう。そして本物の警察官が、
「名前と国籍を訊こう」
「アーティー・ナイト。合衆国から来た」
「職業は」
「
「ふん」
小馬鹿にするように、鼻を鳴らした。俺が彼の正体を知っていることに、気付いたのだろう。
「知っているのなら話が早い。こんな時間まで何をしていた」
「ご想像にお任せするよ」
ターゲットを確認したのが昨日の3時頃なのに、それから23時間も経ってようやくゲートに向かうなんて、文字どおり
「
前のステージと全く同じ展開だな。しかし、あの時はステージ内の泥棒だったが、今回は
「渡せと言われて素直に渡す
「もちろん、いるとも」
言い終わった途端に、パン!という乾いた音が静かな林の中に鳴り響いた。まさか脅しでも撃つとは思ってなかった。いくら周りに民家は少ないからって、昼間だぞ。そこの道を車が通ることだってあるだろうし、誰かに気付かれたらどうするつもりなんだ。
「他の
「致命傷さえ与えなければいいのだよ。腕や脚にかすり傷を負わせるくらいでは失格にはならん。
「聞いてないな。後で訊くことにするよ」
「結構だ。さて、腕がいいかね、脚がいいかね」
「どっちもごめんだな」
また音が鳴って、今度は俺の持っている鞄に当たったようだ。既に傷だらけの鞄だが、穴を開けるのは勘弁して欲しいところだ。
「銃の腕は信用してもらって構わんよ」
「そのようだな」
「では、改めて訊くが、腕か、それとも脚か」
「そういうことをせずに大人しく渡すという
「あるとも」
左手で上着のポケットから何か取り出して、俺の目の前に放り投げてきた。指輪のケースかな。どこかで見たことがある色だ。
「その箱に
「鞄も手放すのかよ」
「当然だ。何を持っているか判らんからな」
鞄を地面に置き、指輪ケースを拾い上げ、蓋を開けて胸ポケットから紙包みを取り出し、中に押し込む。
「
目ざとい奴。紙包みからルビーを取り出し、ケースの中に入れる。蓋を閉めて、鞄の上に置く。
「向こうを向け。両手を挙げて、歩くんだ」
予想どおり、元来た道を逆戻りだ。20歩ほど行ったところで、後ろから足音が聞こえてきた。奴が宝石ケースのところへ向かっているのだろう。俺の方は、木立のところまで来た。後ろの足音が止まった。チャンス。振り向きざまに、ファイア!
「うわっ!」
「ぐわっ!」
メルシエが拳銃を手放したことを確認し、鞄へ素早く駆け寄る。手放していなかったらあと2、3発はぶつけてやろうと思っていた。メルシエも駆け寄ろうとするが、タックルで吹っ飛ばしながら鞄と宝石ケースを
「
ついでにタックルの強さとキックの飛距離もな。
「な、何だ、さっきのは……一体、どこから……」
「子供用のラグビー・ボールさ。スポーツ用品店にはアメリカンのものはなかったからな。だが、大きさはほとんど同じだったから投げやすかった」
歩いている間に距離も歩測したし、振り向きざまでも方向は判ってるから当てるのは簡単だった。普段は動いてるレシーヴァーに向かって投げるのに、今回は動いてないんだぜ。ノー・ルックでも当たるって。
「ラグビー・ボールだと……そんなもの、どこから……」
「そこの生け垣に隠しておいた。他のところにもいくつか。ターゲットを獲得してから丸一日後に退出しようとしてるんだから、あんたの待ち伏せを予想して、それくらいの準備はするさ」
実際は23時間後だがな。その間、メルシエは睡眠時間は取れたんだろうか。一晩中どころか今まで起きてたのならご苦労なことだ。俺はタイヤー岬の近くの別荘に勝手に潜り込んで、十分寝させてもらったが。
「さて、先にゲートを通らせてもらおうか。後ろから飛びかかってきても、さっきみたいにタックルで吹っ飛ばすことになるから、やめておいた方がいい」
拳銃さえなければ、体力差で俺の勝ちだ。相手がもっとごついラガーマンなら、違う作戦を考えなきゃならなかっただろうな。メルシエは諦めたのか、地面に座り込んだままだった。服の砂を払って、教会の入口へ向かう。もちろん、後ろの足音は警戒する。遺跡のようにボロボロになった教会跡だが、ドアはまだ付いている。そのドアを開けて中に入る。宝石ケースからルビーを取り出す。
「
ルビーを腕時計にかざしながら、
「
昨日の夕方と、今朝と、岬で待っていたが、ジェシーは現れなかった。きっと、
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