ステージ#2:終了
#2:バックステージ
「ステージの結果について、クリエイターからのコメントをお伝えします」
いつもながらの
「今回も、調査不足が目立つ。特に、シスター・ジェルメーヌに対する調査が全くなかったのが致命的である。ベルターニ神父、ダニエル・フッサールとの会話も不十分だった。推論の結果は最終的には正しかったが、多くの判断を憶測で進めており、ステージ内で用意されたシナリオが充分回収できていない。また、進行の速度にむらがあり、余計な時間を費やしている場面が見られる。特筆すべき点は特になし。以上です」
今回はクリエイターのお出ましはなく、
「先ほどのステージに対する質問を受け付けます」
「シスター・ジェルメーヌにはどうやったら会えたんだ? 彼女がいる場所に、俺は行けなかったんだぜ。サント・マキシムだったか」
「あなたがベルターニ神父と適切な会話をすることで、会う方法が判るようになっていました」
「しかし、ベルターニ神父と会話する機会はそんなになかったはずだ。司祭館に押しかけていけばよかったのか?」
「初日、あるいは2日目に、あなたが神父に適切な質問をすれば、神父と親しくなれるようになっていました」
確かに初日に偵察に行ったときも、2日目にマリア像を見たときも、神父はその場にいたが、いずれも他の人々と話し中だった。少し待って、あるいは強引に話しかければよかったとでも?
「調査に時間をかけ過ぎたらもう一人の
「いいえ、どちらの立場でもターゲットに対して全ての情報が集められるのは、5日目終了時点になっていました」
「しかし、情報が全て集まっていなくても、推論さえ正しければ、ターゲットが手に入れられるんじゃないのか?」
「本ステージではそれで何も問題がありませんでしたが、他のステージでは調査不十分のまま盗犯行為に及んだ場合、最終的にターゲットを入手できなくなることがあります」
何だよ、それは。
「トラップに引っかかって先に進めなくなる場合があるってこと?」
「そのように考えていただいて結構です」
あああ、解ったよ、解ったよ。確かにそいつはゲームの世界の仕様だよな! フラッグ・ビットを立てなきゃクリアできない、余計なフラッグ・ビットを立てるとクリアできない、そういうゲームも確かにあるだろうぜ。アドヴェンチャー・ゲームみたいなやつとかね。だったら、ゲームのどこかの時点に戻ってやり直しするセーブ&ロード機能も追加しておいてくれないか?
「ステージ内の
「ステージ終了期限の12時間前から自動的にゲートが開きます。ただし、これは臨時的な救済措置ですので、発動しない場合もあります」
「例えば?」
「6ステージ連続で
「そりゃ当然だろうが。他には?」
「ステージ内の複数の
「そんな例があったのか」
「はい」
何だよ、それは。毎日毎日盗みのことを考えさせられて、失敗続きでいやになってきたら、自暴自棄でそんなことする奴らが出てくるってのか。確かに、連続して
「他に質問がなければ、次のステージに移ります。よろしいでしょうか」
「おい、待てよ。もう少し質問したいんだ。えーっと……」
「90秒間、お待ちします。なお、不必要な遅延行為は、
「
「確保したターゲットを没収する場合があります。また、先のステージで
やっぱりペナルティーにも段階があるんだな。ますますフットボールみたいになってきた。
「解ったよ。次に移ってくれ。いや待て、思い出した。さっきもう一人の
「はい」
「奪う時や、それを避ける時に相手に怪我をさせるのは、
「程度に依ります」
「例えばぶん殴って気絶させるのは?」
「後遺症が残らなければ特に問題ありません」
「後遺症って……いつ判定するんだよ」
「ステージ終了後に
「毎回やってるのか?」
「はい。その間、
さらりと怖いことを言ってくれる。つまり、こちらの意識はクリエイターにモニターされているどころか、コントロール下にあるということだ。そして、ついさっきまで俺はそういう状況に置かれていたということか。
「他に質問がなければ、次のステージに移ります」
「さっきの続きだ。銃で腕を撃たれて全治1ヶ月なら?」
「
そういうことなら防具も着けさせてくれないか? ヘルメットとショルダー・パッドだけでも大概のことで怪我しない自信があるんだが。
「俺が後遺症の残るような怪我をさせられた場合、その後、俺はどうなるんだ?」
「活動可能な状況まで回復した後、ゲーム続行となりますが、傷跡が残る可能性があります。ただし、神経系統については全回復します」
「腕や指が動かなくなることはないと」
「はい」
「骨折も治るのか」
「はい」
「欠損した場合は?」
「欠損状態は回復しません。また、手術痕が残ります」
そうなると右腕と指だけはどうあっても守らないといけないな。使えなくなったら俺の唯一の技能である解錠能力が失われて、そのまま失格へまっしぐらだろう。
「解った。もういい」
「了解しました。アーティー・ナイトは第3ステージに移ります」
前回は寝不足のまま退出したが、今回は十分寝ておいて良かった。ステージ終了時点で休息は完了していることになってるから、寝不足も解消されるんだが、睡眠という行為による満足感を得られるかどうかで精神的余裕に違いが出るからなあ。
「次のステージのターゲットはアングロ・サクソンの金細工、
前のステージ開始前にも全く同じような説明を受けた気がするぞ。儀式だな。だが、今回は
「なお、先のステージで確保したターゲットは、腕時計に格納されます。アーティー・ナイトが確保したターゲットはレッド。文字盤の2の数字をレッドに変更しますので、ステージ開始後に確認願います」
はいはい、前回のグリーンが4で、今回のレッドが2ね。これじゃあコンピューターの色番号だよ。で、次のターゲットは金細工……金はイエロー? 6か?
「装備の変更は、金銭の補充以外、特にありません。前のステージであなたが入手した装備は継続して保持できます。ステージ開始のための全ての準備が整いました。次のステージに関する質問を受け付けます」
「一つ思い出した。さっきのステージではフランス語が勝手に俺の頭の中で英語に翻訳されたが、俺が知らない言語の時はいつもああなるのか?」
「同時通訳機能は適用されない場合があります。あなたが理解できる言語については通訳されません。また、ステージ内での基本言語以外の話者には適用されません」
「もっと具体的に言えよ……例えば、フランスのステージでイタリア語を話す奴の言葉は同時通訳されないってこと?」
「そのとおりです。他にご質問は?」
「いや……もうない」
「それでは、心の準備ができましたら、お立ち下さい」
ステージ終了時点では立ってたはずなのに、知らない間に座ってたってのは気持ち悪いもんだ。自分の身体が自分の物じゃなくなった気がするよ。軽くため息をついて、座っていたディレクターズ・チェアからゆっくりと立ち上がる。次のステージは、何となく気合いを入れ過ぎない方がいいような気がする。いや、根拠は全くないが……
「ステージを開始します。
それ、本心から言ってる?
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