∞第31幕∞

 お父さん、ナイス、とゆらのは心の中で親指を立てて、とはゑの手を取った。

 とはゑが取られた手に目線を落として、腕をたどってゆらのの顔を見る。

「いっしょに、行ってくれるのよね?」

 ゆらのの確認に、とはゑは目を輝かせて大きくうなずいた。

 一緒に、未言を救い、人々を助ける。

 二人なら世界だって救えちゃいそう。

 昨日、布団の中でゆらのが言った想いは、そのままとはゑの胸の中で太陽のようにきらめいている。

 ゆらのがとはゑの手を引いて、階段を駆け下り、玄関へ向かった。

「じゃ、行ってくるわ」

 大人二人に声をかけて、二人の少女の後を悠然とにこゑが追う。

 玄関では、勢いよく飛び出したゆらのが、立ち止まっていた。

 にこゑの足音に、ゆらのがすがるように振り返る。

「あの、このかっこって、スニーカーじゃダメですよね?」

「良かったわね、立ち止まれて。そんなことしたら許さなかったわよ」

 にこゑは、とはゑとゆらのの横を通り過ぎて、たたきに降りた。

「とはゑ」

 まずはとはゑが呼ばれて、とはゑは玄関の段差に腰かける。

 にこゑはその足に、組みひもが鮮やかなブーツをはかせる。

 きゅっとひもが結ばれれば、そのブーツはとはゑの足にしっかりと馴染んだ。

「次」

 続けてゆらのが呼ばれて、とはゑがそうしたように段差に腰かける。

 足袋の足を手のひらに乗せられて、白塗りに紅の鼻緒を付けた草履をはかせてもらう。

「まって! とはゑはブーツなのに、あたしは草履なんですか、寒いじゃない!」

 ゆらのに草履をはかせて立ち上がったにこゑは、ゆらのを細い目で見下ろした。

「ゆらの、貴女にブーツなんて履かせたら、また飛んで跳ねて蹴るでしょう」

「そ、それは……」

 確かに自分ならやりかねない、いや、むしろ草履でもやる、と自覚するゆらのは、にこゑから目をそらして言葉をつまらせた。

「いいから、行きなさい。未言少女たち」

 にこゑが口にした言葉に、ゆらのは顔を上げ、とはゑは胸の前で手を合わせた。

「未言――」

「しょう、じょ」

 二人が言葉をつないで繰り返す。

 にこゑは、その通りとばかりにうなずく。

「未言少女は、未言を救い、人々を助け、世界を救うんでしょう?」

 ゆらのは、草履でしっかりと地面を踏みしめて立ち上がった。

 とはゑは、ゆらのに寄り添って、その手をにぎる。

 二人の少女は、始めて、自分たちが何者であり、なにをすべきかを、強く、強く命に宿した。

「行こう、とはゑ! みんなを助けるために!」

「う、ん! ゆらのちゃん、み、んなを、すく……ため、に!」

 未言少女は、手を取り合い、駆けだした。

 黄金を雲から透けさせて、世界を包み込むような、上光の普いていく空を目指して。

 お互いを自分の在り方の証明だと、確信して、そのあふれる想いに胸を満たして、歓喜に突き動かされるままに、雪も眠る朝の中を真っ直ぐに進んで行った。

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