最終話 灰色の未来

 その日以来、俺はの言いつけ通り家に帰らなかった。


 ビデオメッセージには続きがあり、研究道具などが揃っている小屋があること、そこにある程度のお金の貯蔵もあること。そしてそれを譲渡すると言った内容もあった。そして今に至る、という感じである。


「まさかあいつが会いにくるとは思わなかったけどな」


 そう、俺は自分で研究を終わらせる気でいたし、どうせ覚えてないだろうからと幼馴染との接触を試みなかった。……まぁ少しは覚えてくれていることを期待して同じ高校に入学したわけだが。そして案の定話しかけられて、そのまま仲良くなった。


「こんな関係じゃ幼馴染とは言えないかもだけどな」


 あいつの誕生日の日、つまり今日なわけだが結局全ての真実を伝えれなかった。嘘をついた。


 真実を伝えたのは、二人の兄に頼まれたからじゃない。俺の命もそう長くは持たないからだ。


「……さて、最後の仕事かな」


 兄を見習ってビデオを撮ろうと思ったが、思いとどまってマイクだけを用意した。



 ******************



 誕生日を幼馴染に祝ってもらって以来、何日も学校でも彼の姿を見なくなった。連絡もつかないし、なにが起こってるのか不安になった。


「……また明日って言ったじゃん」








 学校から家に帰ると、荷物が届いていた。私は丁寧に紙包みを破る。


「ノートパソコン……?父さんからかな」


 しかし宛先を見て私は息をするのを忘れて固まった。それは幼馴染からのものだったからである。


 恐る恐る開いてみると、いくつかファイルデータがあった。そして真ん中に、まるで最初に開けてくれと言わんばかりの音声データのファイルがあった。


 開いたらダメだ。そんな恐怖に駆られつつ、それでも開かずにはいられなかった。私は静かにカーソルを合わせてクリックする。聞き慣れた幼馴染の声が響いた。


『親愛なる幼馴染へ』



 ******************



「……博士!この研究はどう言った経緯で行ったものなのでしょうか」

「はい、私は幼い頃不治の病を完治させ話題になったのは皆さんも知っていることと思います。……もう15年も前になりますか」


 記者会見というものは初めてだったが、不思議と緊張はしなかった。これは兄が、そして幼馴染が命をかけて調べていたことなのだから。


「実は私の親族もこの病気にかかっていたんです。そして、病気について研究も行なっておりました。それを私は引き継いだだけです」


 こみ上げてくる涙を堪えながらカメラに向かって質問に答えていく。……やったよ、兄さん。


「これからは何を研究するおつもりですか?」

「今は夫の研究を手伝っています。まだ内容は明かせませんが、人類にとって革新的なものになるはずです。どうか応援よろしくお願いします」

「以上、雨宮あまみや夏芽なつめ博士でした!」


 私の首には、今もあの日のネックレスが輝いている。

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