第6話 黒い真実(下)
『親愛なる弟へ。君がこれを見ていると言うことは、僕はもうこの世にはいないだろう……』
『……みたいな、野暮な言うことはいうつもりないから安心したまえー!』
『仮にも病人なんだから落ち着けって……』
『まぁ、それはともかく。今は真実を話すよ。僕らの病気について』
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『どこから話すべきだろうな。ともかく、この病気は不治の病なんだ。治らないんだよ。暗い話ばかりになってしまうのは許してくれ
『だからお前とは会えない。これからも会うことはないと思う。お前が来てくれてることはこいつから聞いているけれど、その時に起きていられないのは残念だ。
『さて、話さなければならないことがいくつかあるから、順番に話していこう。僕の意識が持つ限りね。
『まず、僕はこの不治の病を研究しているんだ。この病気はおそらく人の手によって作られ、今の医者では解明は無理だろう。僕を被験体にしたデータがいくつかあるから、隣にいるこいつ、それからお前に託したい。俺の命はそう長くはもたないから、お前たちに後を任せるよ。
『次は、お前についてだ。実はこの不治の病、遺伝によるものが大きいらしいんだ。親の世代に作られ、広まったらしい。まぁなにが言いたいかというと、こうだ。お前が生まれてすぐに僕が開発途中だった薬を打っているからしばらくは平気かもしれないが、いずれお前も発症する可能性が高いんだ』
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「あれ、もうそれを見つけたんだ」
「わっ!」
急に声をかけられて振り返ると、幼馴染の兄が立っていた。どうやら集中してパソコンに釘付けになっている間に病室に入ってきたらしい。
「急で悪いんだけれど、君はベッドの下にそのパソコンを持って隠れてくれるかい?ほんとは僕はそのパソコンを隠して君に託すためにここへ来たんだけれど、その必要は無くなったみたいだから。物音がしなくなったら静かにここから逃げなさい。どこか遠くへ」
「いきなり言われてもわかんないよ……」
「早くしろ!」
「ヒッ……」
いつも話していた様子からは考えられないような怒声を浴び、反射的に隠れた。そしてほぼそれと同時に病室のドアが開いた。
「……貴様今誰かと話してなかったか」
「まさか、気のせいっすよ」
入ってきたのはスーツを着た二人組。そして素顔を隠すようにサングラスをしていた。
「まぁいい。主人様の命令だ、同行しろ」
「どうせあれだろ。腹違いの妹の手術に必要なドナーを、発症しなかった、そして正妻の子ではない僕から取ろうっていうんだろ。そんなことしていいと思ってるのか?」
「我らのやり方は貴様も知っているはずだが?」
「……そうだな」
なんだ、なんの話をしているんだ。話が難しすぎてわからない。なにが起こっている?これからなにが起こる?
「別に逃げはしないよ。ただ一つだけ約束して欲しい。妹の手術が終わったら他の人たちに手を出すな」
「それを決めるのは主人様だ。我々に決定権はない」
「それはそうだな。じゃあ親父に伝えておいてくれ。……あ、あともう一つ。家にも帰るな」
「なにを言ってるんだこいつは。もういうことがないなら行くぞ」
「へいへい」
そう言って彼が二人に連れて行かれていくのを僕はずっと見ていた。その時、彼が何か紙屑のようなものを落とした。
言われた通り、物音がしなくなってから彼が落とした紙屑を拾い、病室を出た。
「家にも帰るなって、僕に言ったんだよな」
そう自分に言い聞かせ、僕は走り出した。
紙屑には
『あとは任せた。逃げろ』
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