第5話 黒い真実(中)
「そっかそっか、君はお兄さんにも妹にも会えていないんだね」
「うん。でもね、会っちゃダメって言われれば言われるほど会いたくなるの」
最悪の出会いを果たしてから、俺は彼と話すようになった。と言っても2週に一度くらいである。
「なら、会わせてあげよっか」
「え、いいの!」
「あぁ、毎月第1、第3月曜日はおやつの時間くらいに病院の中庭においで」
「うん!」
初めて会った兄は、そして久しぶりに会った(らしい)幼馴染は、どちらも寝たきりだった。病室に飾ってある花を買ってきたものと変えて、すこし眺めて帰る。ただそれだけの単純なものだったが、それだけでも嬉しかった。会えないと思っていた兄に会えたことが。
「ねぇ、兄貴のことを聞かせてよ」
「あぁ、いいよ。あいつのことなら恋愛事情くらいまでだったら知ってる」
「そんなのはどうでもいいし言われてもわかんない」
「つれないなー」
お見舞いの後は、基本的に中庭で2人で話をした。兄のこと、幼馴染のこと、その他のいろんなこと。
「僕の家族はね、偉い家系なんだよ」
「えらい?」
「そう。この国を支えてる1つの一族なんだ。建物で言うと真ん中の大きな柱だ」
「すごーい!」
「でもね、おうちがすごく厳しいんだ。だから、僕は家出してるんだ」
俺がお見舞いを始めてしばらく経ったとき、こう告げられた。
「家出?……家族と離れて寂しくないの?」
「あぁ、まぁ家出というより父上に追い出されたというのが正しいけれど」
「お父さんひどいね」
「いんや、僕が今までふざけすぎたからね。自業自得なのさ」
「ふぅん」
その話をしてから、彼は俺に姿を見せなくなった。
******************
その頃になると俺も一人で病院に行けるようになっていたから、特に気にもとめていなかった。ただ、忙しいんだろうなとばかり思い、一人でお見舞いをする日々が続いた。
「兄貴、今日も来たよ」
その声はいつも虚しく空気に流される。しかし、この日はいつもよりそれが強く感じられた。なぜなら、病室に誰もいなかったから。
そして、兄が横たわっているはずのベッドの脇にある机にはノートパソコンが一台。開けてみると、一つのファイルがデスクトップにあった。
『親愛なる弟へ。』
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