第2話 黒い日常
「それで、あんたの用事って?」
「……まぁ移動時間中暇だし、少しくらいは話してもいいかな」
そう言って私の幼馴染は、切り出した。
「今日行くのはお墓参りだよ」
「お墓参り?誰の?」
「……お前に最も関係ある人、かな」
「最も??あんたじゃなくて?」
「勝手に俺を殺すな。……お前の病気のこと、何か聞いてる?」
深刻な顔で幼馴染が聞いてくる。深刻、というよりは少し怯えた感じ。確かに私にとっても病気のことは触れないでほしい部分ではあるけれど、こいつはそれを分かった上でこの話をしている。おそらく何か深い訳があるのだろう。
「えっと、生存確率が非常に低い病気だったって」
「そう。腕の良い医者がついてくれたからなんとか助かったって、世間でも話題になった」
「うん。……それがどうかしたの?」
「お前さ、その頃の記憶ってどれくらい覚えてる?」
なぜそんなことを聞いてくるのかはわからない。わからないが、何故か胸が痛んだ。この痛みを私は知っている。それこそ、病気が治ってすぐのことだ。
「……覚えてるのは、お母さんの泣き顔だけかな。見ているのが少し辛くて心が苦しかったから、印象的だったのかも。あとは全くかな。寝たきりだったし、意識もそんなになかったらしいし」
「叔母さんはさ、なんで泣いていたかわかる?」
「ん?私が助かったから嬉しくて、じゃないの?」
「もちろんそれもあるさ。……この駅で降りるよ」
あいつが先導するのに従って、私は続いて歩いていく。お墓参りと聞いていなかったら驚くような風景が駅前に広がっていた。建物がほとんどない、まさに霊園と言ったようなところだった。
「それもあるけど、それだけじゃないんだよ」
電車の中での話を彼は続けた。歩きながら、供える花を用意しながら。
「そろそろ着くから勿体ぶらずに話すよ。これ聞いたら多分混乱すると思うけど、落ち着いて聞いて欲しい」
「う、うん」
彼が不意に立ち止まった。そして振り返りながらこう言った。
「君の命は確かに助かった。でも、治療にはドナーが必要だったんだよ。なるべく血縁のある、ね」
彼の目には涙が浮かんでいた。何故、と考える前に彼の言葉が頭の中に響いてきた。
「ここが目的地。ここが、お前の兄の墓だ」
——正確には、俺の兄の墓も兼ねているんだけどね。そう告げられたとき、僅かな記憶が頭をかすめる。病院でまだ治療が行われる前、私の意識が朦朧としているとき。よく会いにきてくれた兄の姿が。
視界がぼやけ、彼もお墓も、何もかも見えなくなった。
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