第2話

教室に入ったとたん、俺は男女を問わず、大勢の人間に囲まれ質問攻めにあう。


にこやかに適当なウソを並べて、俺はすっかりクラスの人気者だ。


涼介はそんな俺の姿を、教室の隅っこでイライラしたようにながめている。


どうだ、この俺さまの魅力は。


普通の人間は、みんなこういう反応をするものなんだぞ。


体育の授業ではあらゆる相手選手を無双し、学科の授業では、全ての問題に完璧に答えてみせる。


昼休みには友達になりたい、なってくれと次から次へと申し込まれ、一緒に食事をしたいという連中が群れてやまない。


すでに机にはプレゼントと手紙の山が出来ている。


俺はそいつらを全て無視して、教室の隅にすわる涼介の前に座った。


「どうだ。今のこの俺の立場を、すっかりそのままお前に譲ってやろう。俺と契約を交わした瞬間から、お前は何の不利益を被ることもなく、そうなれる」


涼介は小さな弁当箱に詰められた、貧相な食事を口にした。


俺は三重の重箱に詰められた、豪華な弁当を目の前に広げる。


「ほら、全てお前のものだ。遠慮なく食え」


「いらない」


涼介は、食べ終わった小さな弁当を片付けた。


「自分で食えよ」


俺はすぐ横で見ていた人間の一人に声をかけ、弁当を皆で食べるように手渡す。


受け取った人間どもは、奪い合うようにそれを口にし、うまいうまいとほめたたえた。


「毒もなければ、それを口にしたところで、なにか洗脳のような作用があるわけでもない。俺は確かに悪魔だが、お前を騙そうとしているわけではないんだ」


涼介はため息をつく。


「ほしくないわけじゃない。だけど、いらないって言ってるんだ。お前も本当に悪魔なんだったら、早く自分の世界に帰った方がいい」


「なぜそう思う?」


「……俺の望みは、悪魔には叶えられないからだ」


そう言って見上げる涼介の目に、強い光が宿る。


なんだコイツ。


悪魔に叶えられない人間の望みなんて、あるわけないだろう。

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