第3話

涼介は、教室の隅に座っていた。


他の人間とは、あまり言葉を交わそうともしないし、他の人間たちも、彼には少し遠慮があるようだった。


わずか少数の、男の人間だけが、彼に声をかける。


涼介はただ、それに従って大人しくついていくだけみたいだった。


俺がどれだけクラスの他の連中からちやほやされても、涼介は動じない。


放課後になった。


涼介は大人しく掃除を済ませ、教室を出て行く。


校内では学校に残った人間どもが、なにやら活発に動き出していたが、涼介はそんなことにも興味はないらしい。


俺は、一人帰宅する涼介の背中を追いかけた。


彼はそんな俺に気づいているのか、いないのか、川沿いの遊歩道を歩いている。


「金か? 金がほしいなら、いくらでもくれてやる」


俺は札束を取り出した。


それを涼介の頭上にばらまく。


「この世の富は、すべてお前のものだ。地位も名誉も望むがまま」


涼介は前髪に張り付いた紙幣を一枚手にとると、それを紙くずであるかのように、さっと払い落とした。


「なんだよ、カネだぞ? お前のもんだ、さっさと拾え」


それでも涼介は、けっして後ろを振り返ることなく、背を向けたまま歩き続ける。


「分かったぞ、才能か? なんの才能が欲しい。絵? 音楽? 学問でも科学技術でもスポーツでも、なんでもいいぞ」


俺は涼介の頭上をひらりと飛び越えると、行く手に立ちふさがった。


これ以上、俺を無視することは、許さない。


「樋口涼介。俺と契約をしろ。そうすれば全ては、お前の思うがままだ」

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