06 背番号発表
その日の放課後。
「ポジションと背番号、発表おおお!」
青い空の下、かりそめの練習場である学校近くの空き地に、いつも通り無駄に大きなボスの声がどどーんと轟いた。
隣の学校に通っているフロッグ以外、選手登録の全員がここに集まっている。
わたしはチーム登録の申請書を役場に取りに行っており、自転車すっ飛ばしていま到着したばかりだけど。
林先生はまだ来ていない。
仕事が残っているとのことだが、空き地の利用は教師としてちょっと気まずいといっていたから今日も来ないかも知れない。
空き地って、空いているとはいえ他人の敷地だからな。わたしたち子供は、平気で利用してしまうけど。
わたしたちはみな、この前の練習と同様で学校のジャージ姿だ。
昨日採寸をしたばかりということもあり、まだユニフォームが仕上がっていないからだ。
ボスがメモを見ながら、また大きな声を張り上げた。
「まだ来てないけど、ピッチャーから発表だあ! フロッグ、背番号14!」
「はあい! 分かりましたあ!」
声の方を見ると、ちょうどフロッグが自転車ひいこら漕いでこっちへ向かって来るところだった。
他校で、一番遠くに住むフロッグは、学校から家まで走って帰宅し、そこから自転車で田んぼ道を飛ばしてやって来るのだ。
だから、この前もそうだったけど、練習出来るのか見ていて不安になるくらいふらふらだ。
「続けるぞ。キャッチャー、ドン、背番号38!
ファースト、サテツ、背番号8!
セカンド、コオロギ、背番号21!」
わたしはセカンドか。
特にボスに話したことないけど、前のチームと同じポジションだ。わたし、どう見ても外野向きではないからな。
ファーストは確かにサテツがやるしかないだろうし、サードなんかは反応の素早いガソリンがわたしより適任だろうし、となれば消去法でショートかセカンドになるのは当然か。
なお選手の背番号は連番ではない。
単にボスの好みやイメージで数字を考えたということらしい。
「ショート、あたし! 背番号はもちろん1!」
1? ショートで? ボスらしいといえばボスらしいけど、なんともいえない違和感だなあ。
「サード、ガソリン、背番号3!」
やっぱり、そうなるよな。強烈な打球が雨あられと飛んでくるポジションだからな。
いつも悪口ばかりいっているけど、相当にガソリンのことを高く買っているな、ボスは。
名誉と責任あるポジションを任されて、ガソリン本人もちょっと照れたように鼻を掻いている。
「次は外野だ。ライトから。ノッポ、背番号25!
センター、アキレス、背番号32!
レフト、バース、背番号44!」
これで九人が発表された。
やっぱり、フミはこの中には選ばれなかったな。
仕方がないか。
体育の授業でしか運動したことないくせに、数日前に突然やるといい出してレギュラーの座を奪えるのなら苦労はない。
なまじここで選ばれたとしても、まともに打てず捕れず投げられずじゃあ本人が惨めなだけだしな。
ガソリンがぎりぎりで参入することになったけど、それがなければ人数の関係で嫌でもレギュラーに入るしかなかったのだけど、でも、後々を考えればこれで良かったのかもな。
などとちょっぴり残念に思わなくもない気持ちを自分の言葉で慰めていると、ボスがポジション発表を続けた。
「リベロ、フミ、背番号99! なんでも屋だから器用じゃないと出来ないぞ。頑張って練習するように」
「……はい!」
なに、リベロって? というように一瞬首を傾げたフミだったが、すぐ気を取り直して大きく返事をした。
わたしも、「なに、リベロって?」だ。他のみんなもそんな表情をしている。
なにかの競技で聞いたことある気がする。自由とか、そういう意味だよな。
定義はよく分からないけど、ボスがいわんとしていることは理解出来た。要するに補欠だけど、全部のポジション、代打、代走、使う場面が来ればなんだってやらせるから期待している、ということ。
言葉遊びに過ぎないかも知れないが、そのようにいうことによってレギュラーから外れたフミの心を救済したのだ。
ちょっぴりボスのこと、見直したな。
横暴で、野蛮で、声が大きくて、すぐに切れて、すぐに関節技をかけてくるけど、リーダーとして色々と考えているんだな。
「以上、十人! これまで以上にしまって行くぞお!」
ボスの叫びに、「おー」とか「はいい」とか、覇気に欠けたちぐはぐな反応をとるわたしたち。
結成して間もないため掛け声や挨拶の言葉が固まっていないのと、野球チーム所属経験があるのがわたしとフロッグだけだから仕方がない。
まあ、おいおい慣れるだろう。
とにかくこうして全員のポジションが発表された。これでポジションに特化した練習や、連係の練習も出来るな。
まだなんにも始まっていないに等しいというのに、なんだか強くなった気分だな。
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