02 チーム始動
杉戸ブラックデスデビルズの記念すべき結成後の初練習は、無難にジョギングから始まった。
ボスを先頭に二列で続き、練習場である空き地から道路へ出て、倉松の田んぼばかりの地域を通って空き地へと戻って来た。
途中から脱落者に付き合ってもも上げでゆっくり走ったから、随分と時間がかかってしまった。
一番に根を上げたのは、やはりというべきかサテツだった。運動経験があまりないし、はっきりいってしまうと肥満体なので、仕方のないことだけど。
二番目に根を上げるのはドンか、わたしの妹であるフミか、どちらかだろうな。と思っていたのだけど、意外なことにアキレスだった。
四年生ながらこのチームで一番の俊足で、兄弟と一緒によく草野球などのスポーツをやっていたというのに驚きだった。
中学生の部活にでもなれば運動系は全般的に基礎体力作りが必須になってくるのだろうけど、まだ小学生だし、能力に偏りがあるのは仕方ないのかな。
空き地に戻って来るなりアキレスとサテツは、服が汚れそうな柔らかな地面だというのにお構いなしでばたんと倒れて大の字になって、陸の上の魚のように大きく口を開いてぜいぜいと喘いでいる。
先頭を走っていたボスも、相当に辛そうだ。膝に手をつきたくなるのを、必死で堪えているように見える。
リーダーであるという意地だけで、走り続けていたのだろう。
ウォーミングアップのジョギング程度でこんなにへたばってちゃあいけないんだけど。
でも、体力のない者は別にへたばってもいいのか。継続しているうちに同じ距離でも段々と疲れなくなってくるから、体力向上を確認する良いバロメーターだ。
数分間の休憩の後は、向かい合ったペアでずらり横に並んでのキャッチボールだ。
「本当は間に筋トレを入れたいとこだけど、今日は肩慣らしだから勘弁してやる」
ボスの強がりだろうか。まだ自身も呼吸が回復しておらず、それはちょっと無理そうに思えるが。
「始め!」
七メートルほどの距離を空けて、わたしたちはボール投げを開始した。
「いくよおっ」
ペアの相手であるノッポが、むすっとした顔ながらも声の調子は明るく可愛らしいという普段通りの態度で、ボールを投げてきた。
わたしは左手のグローブを緩く拡げ、受けた。
さして球速はないように見えたのに、グローブの中にはずっしりとした感触があって、まるで男子とキャッチボールをしているみたい。良い球だ。さすがバースといつも練習していただけあるな。
「それっ」
右手に持ち替え、投げ返すわたし。
「ほんとコントロールいいよね、キミちゃん……じゃなくてコオロギ」
せっかく間違って以前の呼び名が出たのなら、別に修正しなくても良かったのに。
ノッポからのボールが再びずばんとグローブに収まったところで、ちょこっと手を休めて周囲へと視線を向けた。
初心者たちの様子が気になったのだ。
まずはドン。
この一週間ずっとわたしと一緒に練習していただけあって、細かな精度以外は問題ないようだ。もともと腕力はあるから、力の入れ方や抜き方のコツを覚えれば精度ももっと向上するだろう。
まだ厳しいボールをキャッチするのは無理だと思うけど、わたしとの練習の成果で、正面へのボールならそこそこ速度があっても取れるようになっている。
だから、ペアを組んでいるフロッグも、特に気を使わずリラックスして投げているようだ。
いや、
もしかしたら気を使っているのかな?
上手投げではなく、ふわっとした下手投げだ。
これからも日々のわたしとの練習があるわけだし、ドンは当面のところ急速に伸びていくだろうから、あまり心配はしていない。
残る二人の初心者、サテツとフミであるが、これはさすがに酷い有様だ。
二人とも、肩をまったく使わずに、肘から先だけでお嬢さん投げをしているものだから、まるで飛ばずすぐぽとりだ。
サテツには、わたしから自主練習メニューを渡しておいたのだけど、一朝一夕に出来れば世話はないからな。仕方ないか。
こうしてみんなでやる練習でないと、なかなか身につかないというのもあるし。
わたしの妹フミであるが、こちらはやるといい出したのが昨日のことであるからして、どうしようもない。
やる気さえ継続してくれれば、そのうちぐんぐん伸び始めるんだろうけど。
運動嫌いだったフミが、せっかくこうして挑戦してくれたんだから、どうにか続けて欲しいところだ。
「ガソリン、てめえ危ねえだろ! キャッチボールで剛速球を投げてくんじゃねえよ!」
「だってボスの方が、先にやってきたんでしょお!」
ボスとガソリンが、なにやら口論している。お互いムキになって、投げる勢いがエスカレートしてしまったようだ。
なんでこの二人でペアを組むのだろうか。
少なくともガソリンは、他の子とは喧嘩せずしっかり合わせられるんだから、だったら違うペアにすればいいのに。
でも、ボスを押し付けられた子が可愛そうか。
ガソリンならば、一人でボスの強烈なキャラをしっかり受け止めてしまうからな。最後の最後に良い子が入ったと、感謝しないとな。
という問題はさておいて、久し振りのチーム練習でのキャッチボールはやっぱり気持ち良いな。チームを強くするためという目的を共有するからか、放課後に一人でやっていたボール練習とは気分がまったく違う。
「コオロギ、なにしてんのお?」
「あ、ごめーん」
わたしは慌ててノッポへとボールを投げた。
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