05 この気持は……

 わたしと海子の二人は肩を並べて、通学路をとぼとぼと歩いている。並んでるといっても海子は長身なので、階段のようになっているが。

 現在、下校中だ。


 とぼとぼ、というと元気なく落ち込んだ様を想像させてしまうかも知れないけど、ある意味でそれは正解。

 わたしたちは確かに落ち込んでいた。


 昼休みに行なった男子との試合に負けたことに対して。

 でも、何故落ち込んでいるのかを考えると、決して国語辞典的な定義のとぼとぼだけではないのだろう。などと、わたしは少し他人事のように思っていた。


 もともとわたしたち二人は、男子相手に勝てっこないと考えていた。

 勝ち負けはどうでもよく、とりあえずその場をやり過ごせさえすればいいと考えていた。


 それが負けて落ち込み悔しい気分であるということは、いつの間にか勝ちたいと、負けたくないと思っていたから。

 つまりは自己をより肯定するような、そんな意味合いを多分に含むとぼとぼだということなのだ。


 わたしたちをそんな負けて落ち込むような気分にさせてくれたのは、あの女の子の仕草、言動だろう。

 パワーの塊のような。

 黙っていれば人形のように可愛らしい、ショートボブの、小さな女の子。


「本当に、凄い子だったよね」


 何度目だろう。この台詞、わたしが口にするの。


「そうだね。見たことない子だよね」

「わたしたちと同じ五年生っていってたよね」

「うん。小さいから本当は下級生なのかとも思ったけど、あんなに態度が……」


 海子は言葉途中でぷっと吹いた。

 身体は小さいけど態度は大きい、ということだろう。彼女自身の笑いのツボにはまったのだ。


 しかし本当、過ぎ去ってみれば嵐のようだったな。

 横暴、我が儘、暴力的、負けず嫌いで。

 勝負が終った後の悔しがりようといったらなかった。

 「土俵が違うんだ、ずるいだろ! 男のくせに恥ずかしくねえのか!」

 って、最初といってることまったく違うし。

 巻き込まれ、男子と試合をするはめになってドキドキだったけど、でも、楽しかった……かも。

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