第62話 隠れ里の魔(5)




 中央の部屋の大きなテーブルには直火で焼かれた大きな魚、スープの入った鍋、ゴギョウの作ったソースが並べられている。


 料理を並べてすぐ、ほとんど間も無くオット一家以外の四人の住人が帰ってきた。


 細い階段から現れたのは全員が似たような貫頭衣にそれぞれマントのようなものを羽織っている。


 見知らぬ男、ゴギョウを見て四人は訝しむような視線をぶつけてくる。

 すぐさまオットが四人に駆け寄り事情を説明してくれた。


 驚きや納得の声が少しだけ聞こえ、ゴギョウは話終わるのを待った。



「紹介しよう、こっちからダン、サニー、リン、ナナだ」


 オットよろしく髭もじゃの男がダン。オットよりも体つきがいい。この家族の父親らしい。

 サニーは短い赤毛できつい目つきから気が強そうだと感じる。母親だろうか。

 リンとナナは二人ともおかっぱ頭に母親似の赤髪。双子だろう。背丈も同じくらいでサカよりは年上のように見える。


「ゴギョウです。よろしくお願いします」



「なあオット、コイツは本当に魔法が使えねえんだな?」


「ああ、大丈夫だ。シャギアの使いだ、間違いない」



 どうも魔法にこだわる。ゴギョウは魔法を使えないし、他の転移者も使えるそぶりはなかった。そういうものだろうと思っているのだが…。



「すいません、みなさん魔法を使えるかどうか、かなり気にしているようですが何かあるのですか?」


「なんだにーちゃん知らねーのか?転移者なんだろ?」

「魔法使う転移者は悪いやつなんだよ!」


 リンとナナが口々に教えてくれる。




 一同はテーブルにつき食事をしながら話の続きをすることととなった。



「どうして僕が転移者だとわかるんですか?」


「雰囲気だな、話し方も違うし、レベルも高いんだろう?」


 ダンは焼いた魚をつつきなが言う。


 地元の人間が旅行者を見てなんとなくわかるようなものだろうか。レベルに関しては、ゴギョウにはピンとこない。この世界での基準がまだイマイチわかっていないのだ。

 しかし石壁の村でオババに言われたことを考えるとあまりひけらかしたりはしない方が良さそうに思う。

 装備も最低限の防具を残してアイテムストレージに収納してある。

 今は胴回りと足具、ショートソードとマントを羽織るだけである。


「転移者って、魔法を使えるんですか?僕の知る他の転移者は使えないんですが…」


「そんなことは知らん、ただ、上の塔の周りが荒れてんのは魔法を使う転移者のせいだ。だからまだお前を信用していない」


 かなりキツイ目つきでダンが睨みつけてくる。その隣でサニーもゴギョウを警戒した目で見ていた。



「大丈夫だよ父さん、このにーちゃん、そんな悪そうに見えねーよ」

「うん、大丈夫だよ父さん。このにーちゃんアホそうだし。そうだろサカ?」


「うん、悪い人じゃない…と思う…」



「ひどい言いようだね、でもゴギョウさんはいい人よ。料理も手伝ってくれたし。ねえ?このソース?とてもおいしいわ」


 子供たちにはそんな言われ方だがセリアが助け舟を出してくれる。

 ゴギョウの作ったソースがたっぷりとかけられた焼き魚をパクパクと食べている。


「その黒いやつ、食えるんだな…」


 オットは妻の食べっぷりに少しひいている。たしかに、知らなければゴギョウの作ったソースはよくわからないドロリとした黒い汁にしか見えない。


「あの、もう塔の周りは安全です。ここや、湖の近くの一部も同じように青い石を使っておきました」


「オマエ、あの石の使い方がわかるのか…?ふむ…」


「明日、上に戻ったら家を建てていくつもりです。もともとシャギアに頼まれたことはそれですし」


「よし、わかった!明日オレもシャギアに会いに行ってやる、それと、ここと塔の周りと、安全に行き来できるようにしてくれ!」


 ダンは立ち上がりカッと目を見開いて宣言した。


「おい、話したろ、明日はオレが行くからお前は狩りに行っといてくれ」


 少し興奮したダンはオットになだめられ「おっ、そうだったか」と座り直した。




 ゴギョウはここにくる道すがら整地を少ししたが、明日は戻る道中にも改めて道を良くしようと考えるのだった。 





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