第61話 隠れ里の魔(4)



ゴギョウが苔の生えた階段をゆっくりと降り、背後ではサカが扉を閉める。

 そのまま奥の台所へ持っていってくれと言うので籠を壁にぶつけないよう慎重に運ぶ。


 少し長めの通路の先の台所は思ったよりも広く、奥行きは20メートルほどありそうだった。

 ここも床は緑に覆われており壁にも蔦が這っている。綺麗な四角や円形ではなくでこぼことした歪な形の部屋で、右奥にはさらに先へ続く通路の入り口が2つ見える。


 こんな地下で火が使えるのだろうか、竈門らしきものや水場などもあることからここが厨房なのだろう。


 竈門のそばに作業台らしきテーブルもある。 

 籠は水場に置いておいた。水場がいわゆるシンクにあたるのだろうが、壁から突き出た筒から常にジャバジャバと水が流れ、かばに空いた小さな穴から流れていく。 

 作業台の側には食器や調理器具の並ぶ棚があり、広さも相まって使い勝手の良さそうな台所である。

 なんともネイチャーなシステムキッチンだ。

 もちろん天井には輝石がいくつも設置してありとても明るい。


「あなたがゴギョウさん?」


 台所を眺めていると背後から女性の声がした。

 振り返るとサカと同じ、綺麗な黒髪をひとつにまとめた女性が立っていた。

 ニコニコと優しそうな笑みを浮かべており、服装もサカと同じようにシンプルな貫頭衣にマントのようなものを羽織っている。


「はじめまして、セリアといいます。お魚、運んでくれたんですね。手伝わせてしまってすみません」


「いえ、突然来てしまって申し訳ありません」


「いいのよ、オットに聞けば上に戻れるんですって?」


「はい、明日オットさんとシャギアに会いに行きます。塔の周りはもう安全を確保できたのでいま建物を作ってるところです」


「建物を……、魔法?」


「いえ、私は魔法は使えません」


「! …そう。そうなのね…」



 シャギアといい、やたら魔法が使えるのか確認される。

 転移者のことは知っているのだろうか。ゴギョウは少し頭を悩ませるが、この後の食事のときにでも尋ねてみよう。


「食事の準備、何か手伝いましょうか?こう見えて料理は多少出来るんですよ」


 異世界で居酒屋料理が通用するかわからないがただ待っているだけなのも気まずい。

 キャンプ用だが自前の調理器具もあるし、この台所にも鍋や刃物などもあるようなのでゴギョウはセリアに聞いてみた。

 セリアは少し考え、


「じゃあ、何かお願いしようかしら」



 ゴギョウは普段の料理はどんなものなのかを教えてもらい、どんなものが作れるのかを考える。

 これから作ろうとしている料理の何が手伝えるのか。

 調味料は塩意外聞いたこともないものばかりでひとつづつ舐めて確認し、使い方も教えてもらった。


 よく考えれば異世界の家庭料理をちゃんと見るのは初めてである。




 結局、なにか根菜を使ったスープ、塩で焼いた魚とメニューになりゴギョウは焼き魚に使えるソースを作らせてもらうとこになった。


 普段は焼いただけでなにもないらしいのだが、ゴギョウの世界…国では味を変化させて楽しむソースがある話をするとセリアは「ぜひ食べてみたい!」とのことで、調味料を確認しつつ、少しだけの量を作るととなった。


 台所の入り口では手伝いをぼんやりと眺めるサカの姿があった…。





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