第43話 水中監獄 テリザの近衛騎士長




 雄叫びをあげた玉ねぎ頭の甲冑は信じられない速度でゴギョウに向け駆けてくる。

 ガシャガシャと音を立てて水しぶきを上げる。

 いざ目前まで迫るとその大きさがよくわかる。これまでの玉ねぎ頭の連中よりもひと回り大きく、2メートルは超えた高さだろう。

 武器も甲冑も明らかに質が良さそうで、少しばかり殴りつけたところでへこみそうにもない。


 どちらにしろ逃げ場は無さそうなので、スキルの壁に意識を集中させて、振り上げられた巨大な曲刀を防ぎつつ横に飛ぶ準備をする。


 ガギッ!

 大きな音を響かせて曲刀が止まる。

 ゴギョウはもちろんビビリ倒して声も出ない。つまらせるように息を止めてみっともなく横っ飛びをして距離をとる。


 確実に振り抜いたはずの曲刀が何故か硬いものに阻まれ、テリザの近衛騎士長は「ゴア…ゴア…?」と困惑した声を上げる。

 横に飛んだゴギョウは水たまりで一回転し、体が水浸しとなる。

 距離が空いた瞬間曲刀を止めていたスキルの壁が消え去りズガンッと石畳に叩きつけられた。

 その拍子に体勢を少し崩したテリザの近衛騎士長は右手を地面に突き刺すような格好で片膝をついてしまう。


 すかさず左側から回り込んだゴギョウは背中からショートソードを振るう。

 しかし甲高い金属音を響かせ小さな傷をつけたのみで、ほとんど効果がないようた。テリザの近衛騎士長に表示された白い線、体力バーは一ミリも減ったように見えない。


 ゴギョウは再びバタバタと大急ぎで駆けて距離をとる。

 が、テリザの近衛騎士長は許してくれない。すぐさま振り返ると今度は右手の曲刀を振り下ろしスキルの壁を切りつけ、返す刀で横薙ぎ。左手の曲刀でゴギョウの頭上ななめ上から袈裟斬りにしてくる。

 

 ギインッギインッ、と響かせながらの乱撃は全てスキルの壁を破ることはできない。

 しかし恐ろしい速度で振り下ろされる曲刀と壁にぶつかる衝撃波のようなものはゴギョウを苦しめる。


 さらに、凄まじい速度の斬り付けは、いくらスキルの壁に守られたからとはいえ恐ろしいことこの上ない。


 敵からの攻撃は防いでくれるが、曲刀の風圧や水しぶきや石の欠片のようなものは容赦なくゴギョウに当たる。

 拳程の大きさのある石飛礫など当たりどころによっては大事になってしまう。飛んできた瞬間、それを意識してスキルの壁を展開させたなら防ぐこともできるがゴギョウにそんな反射神経はない。


 ゴギョウの攻撃はほとんど効果がないようで、言うなればダメージ1しか通らない、といった感じである。スキルの壁で殴りつけても大差はなさそうだ。

 毒は…、全く意味がなさそうだ。とにかく、相性が悪すぎる。


 壁際まで後退し、テリザの近衛騎士長の攻撃で壁が崩れないだろうかと試してみるが建物の壁に傷ひとつつくことなくゴギョウの頭上を曲刀がかすめるばかりだった。

 むしろわざわざ自分から壁際に追い込まれた為逃げ場がなくなってしまった。


 上から横から、嵐のように叩きつけられる攻撃に生きた心地がしない。

 筋肉が緊張で強張り痛みすらある。

 

 意を決して目の前に大きく開かれたテリザの近衛騎士団の股の間に飛び込み背後に回る。

 曲刀を大きく頭上に振りかぶった瞬間、タイミングを合わせて飛び込む。

 その時股の下がチラリと見えたが黒いモヤモヤがあるだけで、肉体と言えそうなものが見えなかった。


 背後に回り込んでとりあえずその黒いモヤモヤにショートソードを突き立てる。

 部位的には臀部、ケツである。


「ゴアウウウウウッ!」


 悲痛な叫びと共にテリザの近衛騎士長は両手の曲刀を落とし、前方の壁に手をついて枝垂れかかるように膝をついてしまった。


 チャンスとばかりにゴギョウは追い討ちを…、かけないで右手側の曲刀を奪いアイテムストレージに収納する。

 そのまま壁伝いに水の張った床を蹴って距離を空ける。


 距離をとって振り返るとテリザの近衛騎士長は立ち上がりこそすれ、何やらワナワナと震えているように見える。

 体力バーは半分近くまで削れていた。


「弱点は尻か!」


 肩で息をしながらゴギョウは小声で吐き出す。



 心なしがテリザの近衛騎士長の赤くぎらめく瞳はより強く、炎を上げるように眼光を増した。

 一本だけになった曲刀を拾い上げたテリザの近衛騎士長は再び広場の中央付近に移動したゴギョウ目がけて駆け出した。



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