第44話 水中監獄 テリザの近衛騎士長 決着




 テリザの近衛騎士長は水しぶきを上げ、その下の石畳を踏み抜いて真っ直ぐにゴギョウに向かってくる。


 首元や肘など関節部分から中身なのか、黒いモヤが染み出している。

 尻攻撃のせいで完全に怒らせたらしい。ただでさえ毒沼の古竜のスキルで作られた壁、シールドにことごとく攻撃を阻まれ、それもストレスだったのだろう。

 さらにゴギョウの攻撃も甲冑の表面を撫でるような、弱々しいものであった。チクチクと鬱陶しいことこの上ない。


 テリザの近衛騎士長はその体から染み出す黒いモヤを少しづつ増やし、甲冑の隙間から染み出す量はかなりのものになっていた。

 一本になった曲刀にモヤがまとわりつき、両手持ちで振り下ろそうものなら叩きつけられた地面から水柱をあげ、いくつもの石飛礫を飛ばした。

 ゴギョウはなんとか頭にだけはぶつけないよう意識してスキルの壁を眼前に展開して守る。

 すでに体はずぶ濡れになっている。


 みっともなく転げ、右は左へバタバタと攻撃を交わし続ける。

 いくら切りつけても甲冑に大きな損傷は全くつけられない。

 再び背後に回ろうにも隙を見せてくれない。濡れた体だんだん体温が下がり、指先の感覚も無くなってきている。

 このままだと今のように攻撃を躱し続けることなどできない。



 ああ、もう、勘弁してほしい。どうしてこんなに攻撃的なのだろう。この玉ねぎ騎士は何故こんなところにいて、目があったと思えば攻撃してきたのだろう。

 それがモンスターというものなのだろうか。とはいえどんな目的で襲いかかってくるのか。


 考えたところで現状がどうにかなるわけでもなく、とにかく今はここを切り抜けて温かいものでも食べて休みたい。




 テリザの近衛騎士長は右腕を大きく振り上げ、体ごと投げ出すような勢いで切りかかってくる。


 ゴギョウは足元を踏み違え、片膝をつくように体勢を崩してしまった。

 とっさに躱せなくなってしまい振り下ろされる曲刀受け止めるようショートソードを差し出しさらにスキルの壁を分厚く、分厚く、と念じながら展開させる。


 ズガッ!と重たい音と共にゴギョウは叩き潰されるような格好となってしまう。


 チャンスとばかりにテリザの近衛騎士長は曲刀を再び振り上げる。


 まさに斬りかかろうとした瞬間、ガリガリと鳴り、テリザの近衛騎士長の右腕は肩から外れ、明後日の方向に吹っ飛んでいった。


 腕のあった場所から黒いモヤが噴き出す。モヤは意思があるかのようにしなり、まるで腕の形のように甲冑からあらわになった。


 ズンッと重量を感じさせる音と共に曲刀を握ったままの甲冑の右腕は離れた壁に突き刺さる。そのまま瓦礫に埋れてしまった。



 ゴギョウは慌てて上半身を起こし、そのまま飛びかかるように黒い腕を斬りつける。


 切り離された黒い腕モヤは溶けるように霧散する。

 テリザの近衛騎士長は「ゴアッ」や「グオッ」など悲鳴?を上げて失った右腕を押さえるように頭から水溜りに倒れ込み土下座のような格好になった。




「だあっ!!」


 ゴギョウは短く叫んでとどめを刺さんと走る。

 バシャバシャ水しぶきを上げてほんの数歩、肘を引いて回り込む。

 背後で黒いモヤの丸見えとなった尻にショートソードを深く突き立てた。



「ゴアアアアアア!」


 絶叫と共にテリザの近衛騎士長はビクンと体が跳ね硬直する。

 ゴギョウの視界の隅にある白いラインはゴリゴリと減り、消え失せた。


 ゴギョウはショートソードを取り落とし、へなへなとその場にへたり込んだ。


「んっ、はあああああああ…」


 大きなため息と同時に入口の鉄格子はガラガラと崩れ、その反対側の鉄扉の鍵が開く音が響いた。



 

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