第41話 水中監獄 白羽の魔術師



 フロアを歩き回り、三度地下へ向かう階段を下りた。

 景色は全くと言っていいほど変わりばえせず、相変わらず水に濡れた牢や通路が続く。

 しかし、モンスターの落とす装備品に変化が出てきた。


 先に拾った「氷の折れた短剣」のように、氷属性や水属性の付与されたものが拾えるのだ。

 モンスターは玉ねぎ頭の甲冑がほとんどで、武器は両刃の直剣や金属の棍棒、大きな金属盾や中には弓を持った者までいた。

 どれもボロボロで欠けていたり、亀裂の入ったのもなど、随分とくたびれていた。


 一度拾った棍棒で甲冑どもを殴ってみたが、付与された属性のせいかイマイチ効果が薄そうであった。派手な音を立てて甲冑を凹ませることはできたが怯んだりすることもなく攻撃を仕掛けてくる。

 むしろ殴ったゴギョウの腕が殴りつけた衝撃のせいで痺れてしまう。


 結局毒沼の古竜のスキルの壁で攻撃するのが一番効率が良さそうだった。

 

 フロアの温度も心なしかさらに下がったような気がする。元々寒いの少し気温が下がったところでわからないのだが、吐く息もより白くなったように思う。


 


 石造りの通路や牢室、壁や天井がずっと続いていたのだが、奥まった広々とした部屋の床に大きな穴が開いていて、地下へと緩やかな下り坂になっていた。

 床は平らに均されていたが壁は剥き出しの岩でそこからも水が音を立てて流れている。

 明らかに雰囲気が変わった。


 下り坂の奥からは風が轟々と鳴き、頬に当たる風は冷たいを通り越して痛い。

 濡れた床を転ばないよう気をつけながら進んでいく。



 スライム、だろうか。

 床や壁、天井にもグズグズと揺れる塊が見える。特に襲いかかってはこないようだが、それには甲冑の一部や剣や盾など、先ほどまでのフロアにいたモンスターが飲み込まれ消化されているように見える。

 朽ちかけた金属を見て、これには近寄らない方が良いだろうと感じる。



 ぐねぐねと曲がる下り坂を進んでいると壁や床に光るものを見つけた。

 青白く光る、ソフトボールほどの大きさの球体が三つ四つが固まってあちらこちらにある。

 うっすらと辺りを照らしていくらか視界も良くなる。

 光苔のようなものだろうか。どちらかといえば光キノコか。


 坂を下りきったのか、景色がまた一変する。

 足元には薄く水が張り、合歓の葉のような植物が生い茂っていた。

 地面から突き出したような岩がごろごろしており、柱のようにそそり立つ大きな岩まである。

 さらに、朽ちた石造りの建物があちこちに見える。広さはかなりのもので、遮蔽物も多いせいで端など見えそうにもない。

 点々と存在する岩を渡るように奥へと進んでみる。


 どこからかパキパキ…と何か割れるような音が聞こえる。

 すると、突如毒沼の古竜のスキルの壁に衝撃が走った。


 バギッと高い音を立てて左側に白い欠片が舞う。

 直ぐに正面をそちらに直しショートソードを構える。

 白い欠片はさらに砕け、パラパラと粉になり消え去る。

 

 真っ白な翼に女性のような胴体、下半身は羽毛に覆われ鉤爪の足。

 ハーピーと言うのだろうか、岩陰からゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。

 ハーピーのような身体だが頭はトカゲのようで、トゲの生えた鱗に裂けんばかりの大きな口。目の部分は深く窪んでおり奥が赤く光っているように見える。


 大きく翼を広げて口を開ける。息を吸い込んだかと思えば、パキパキと音を立て白い筋が一直線にゴギョウに向かってくる。

 再びスキルの壁に白い欠片ぶつかるとパラパラと消えていく。


 肌に感じる冷気から氷の塊だとわかる。

 白いハーピーのようなモンスターがバシャバシャと音を立て駆けてくる。

 瞬く間に10メートルほどの距離を詰めて、振りかぶった翼を振り下ろす攻撃。

 ガガガッと引っ掻くような衝撃がスキルの壁に走る。


 またも「ひいっ!」と情けない声を上げしゃがんでビビるゴギョウ。

 

 ショートソードをしゃがんだまま横薙ぎに振り、モンスターの脚を切りつける。


 「ギャッ!」と呻きながら水に頭から倒れ翼を振り回す。

 すかさず翼の上部を切りつけてから頭にショートソードを突き立てた。

 「ギイイ…」と気持ちの悪い悲鳴を小さく上げてソレは動かなくなった。

 毒の効果は薄いのか、純粋にショートソードでつけた傷が致命傷のようだった。


 肩で息をしながらショートソードを引き抜き、先に着いた赤い血を振って散らす。足元の水で少し洗ってから鞘に収めた。

 

 右手をかざして「解体」と念じると粒子になりモンスターが消えていく。


 アイテムストレージには鉤爪と羽がが追加され、そのアイテム名は「テリザの魔術師の爪」「テリザの魔術師の羽」であった。


 魔術師…?あの白い氷の塊が魔術なのだろうか。

 ………。


 …怖かった。めっちゃビビった。

 突然訳の分からない音と共に氷の塊が一直線に飛んできて、翼があるのに飛ばない変な頭の鳥。



 冷や汗も凍るような場所でゴギョウはしばらくへたり込むのであった。







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不定期な更新で申し訳ありません。

もうしばらく続きますので応援よろしくお願い致します。

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