第39話 水中監獄 テリザ



 


 しばらくの間ゴギョウはそのまま歩き続け、次第に辺りはゴツゴツとした岩肌は大きめのレンガを積み上げたような石造りの通路になってきた。

 ゴギョウの周りに張り付いている黒ローブどもは八体にまで増えた。

 流石に鬱陶しくなって、足元に落ちていたソフトボールくらいの石を拾って投げつける。

 するとその石は纏っているローブに当たるが何事もなくドシリと下に落ちる。

 刺突や斬撃があまり効果がなさそうだったので打撃ならば、と思いやってみたが期待が外れてしまった。


 ショートソードでは簡単に傷ついたローブだが打撃にはめっぽう強いようだ。


 何度か石をぶつけてみると、骨が剥き出しの部分は簡単にバラバラになった。

 

 どうやら骨そのものは打撃に弱く、身に纏う黒いローブは斬撃に弱いらしい。

 本体は骨の部分なので、結局打撃を有効に叩き込むことが必要になる。

 しかしゴギョウの武器はショートソードと小さな毒ナイフだけである。左腕がほとんど動かせない以上、重たい武器は使用できない。


 ガシャガシャと喧しい音を立てながらゴギョウはそのまま歩き続けた。

 黒ローブは更に増え今は十体ほどが重なってスキルの壁に張り付き攻撃を仕掛けてくる。もはや前方も塞がれいよいよ面倒くさくなってきた。

 


「あっ!そうだ!」


 ゴギョウはショートソードを鞘に納め、右手の掌を頭上に掲げる。

 スキルでできた壁の外側に新しくブロック状の壁を展開させる。

 そのまま腕を振り下ろし、ブロック状の壁で黒ローブたちを殴り始めた。

 幸い骨と布だけのモンスターなので、体重は軽くブロック状の壁で殴られただけで吹き飛んでいった。

 特にブロック状の角の部分で殴ると骨は簡単にばらけ、すぐに動かなくなった。効果は抜群だ。

 十体以上いた黒ローブどもは瞬く間に全滅し、ゴギョウの足元には骨が散らばることとなった。


 骨とローブを拾い上げ収納してみる。しかしそれらは「ただの骨」と「汚れた布切れ」と表示されて、なんの価値もなさそうだった。


 結局黒ローブどもの名称は解らずじまいだ。まぁ、ローブドクロで構わないだろう。




 しばらく進むと一本道ではなくなり、十字路になっていた。適当に右に曲がり、その先もまた十字路。

 左右には鉄格子の扉がついた小部屋がある。

 迷路ではないが、碁盤の目のように広がるフロアのようだ。

 小部屋はいたるところが崩れていて、鉄格子の扉は機能していないものがほとんどのようだった。

 十字路と十字路までの距離は10メートルくらいか。四畳半ほどの小部屋が各通路、左右に一つづつ。

 似たような風景なので迷わないように、通路に輝石をはめ込んだブロックを設置していく。


 やはりダンジョンはクラフトスキルで壊したり作り替えたりできないようで、試しに閉ざされた鉄格子を破壊してみようとしたが出来なかった。

 しかし、クラフトスキルで作り替えることはできないが毒沼の古竜のスキルの壁で叩いてみると、ガラガラと崩れることがわかった。


 

 時々ローブドクロに張り付かれながら進んでいるとガランとした、広い部屋にでた。

 天井には蝋燭のシャンデリアがぶら下がっていた。燃え尽きたりしないのだろうか…。


 朽ちかけた木製のテーブルや椅子が散乱しており、あちこちに甲冑が転がっている。

 鈍い銀色で、飾りのないつるりとした胴、兜は丸く、玉ねぎのような形をしている。

 近づいてみると甲冑が突然動き出した。


「ヒェッ…!」


 ビビって声を上げるゴギョウ。

 ガチャガチャと音を立てながらまるで糸で釣られた操り人形のようにゆっくりと立ち上がってくる。

 

 しかし、立ち上がりから前にゴギョウはスキルの壁ブロックを使って玉ねぎ頭を何度も殴りつけた。


「…!…!…!」


 声こそ上げてていないがゴギョウの心臓はドッキドキである。


 殴っているとゴギョウの背後でも大きな音がガシャン!と響いた。


「んああああっ!」


 驚いたゴギョウは情けない叫び声を上げながら振り返り、その勢いのままスキルの壁ブロックを横薙ぎでぶんぶんと振る。すると、背後でスキルの壁に取り付いた玉ねぎ甲冑が派手な音を立てながら殴りかけられ、勢いよく倒れた。


 広い部屋に甲冑のぶつかる音や、テーブルや椅子が壊れる音がしばらく鳴り響いた。


 動くものの気配が無くなり、肩を上下させながらようやく落ち着いたゴギョウが改めて辺りを見渡した。


 すぐ足元にはバラバラの木片や、ベコベコにへこんだ甲冑が転がっている。


「これも、モンスター、なのかな…」


 甲冑の中身は空っぽで、折れた剣や折れそうな剣が一緒に転がっていた。

 ひとつ拾ってアイテムストレージに収納してみると見た目のまま「古い折れた直剣」とあった。なんの役にも立たなそうだ。折れていないのは「古い直剣」だった。

 甲冑は「看守の鎧」や「看守の丸兜」、「看守の鉄小手」などの表示だった。


 この広い部屋は看守たちの食堂か、そんな場所なのかもしれない。

 で、あれば詰所のようなところもあるのか、と広い部屋をぐるりと見渡すと先ほどの牢屋が並ぶ通路とは雰囲気の違う、木製の扉が目についた。


 おそるおそる扉を開けてみるとここにも木製のテーブルがあり、木箱が並んでいた。どれも朽ちかけで、朽ちた木箱もある。

 広さは牢の倍ほどで、角にある机には引き出しがあった。


 引き出しを開けると紙束と錆びた鍵が入っている。

 輝石ブロックを設置して紙の一枚を手に取る。


「読めないな…」


 みたこともない文字が並んでおり、とても読めそうにない。

 紙束と一緒に鍵をアイテムストレージに収納する。どこかで使えるかもしれない。


 アイテムストレージには「テリザ監獄 看守室の鍵」と表示された。



 どうやらこの水中監獄の名前は「テリザ監獄」というらしい。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る