第38話 水中監獄
ポーションの等級はⅠからⅧ。
水の街フローラでもⅣまでのポーションは作られて、販売もされている。
身体の欠損など重大な怪我にはⅤ等級以上のポーションで効果が期待できる。
最高等級のポーションはどこにも出回っていないらしい。ほとんど幻のポーションで、死んでも生き返るなんて言われている。
ゴギョウは欠損などではなく機能不全のようなものなので目指すはⅤ等級ポーションである。
街の医者や薬屋を回り情報を集めた。転位者には冷たいと思ったが意外とそうでもなく、転位者だと知られていなければ普通の街のようだった。
そんなポーションは稀にダンジョンから見つかるという話で、ちょうどここフローラの地下にダンジョンがあるという。
「本当に一人でいかれるのです?」
「うん、ルッカも一緒に来ちゃうとこの装備の毒がついちゃいそうだし、危ないよ」
「それは、まあ、そうですが…」
「そのかわりマサさんの案内をしっかり頼むよ」
マサさんが青い篝火の拠点に行きたいというのだ。なんでも、篝火のエリア内でしか作れないものもあるとかで、ゴギョウがダンジョンに潜る間ルッカにそこまでの道の案内を頼んだ。
「はい!わかりました!姫様のご様子も気になります!」
ルッカとマサさんが出発した翌日、ゴギョウは島の中央の建物にある大きな螺旋階段を下る。
地下ダンジョンにつながる螺旋階段の入り口は頑丈そうな鉄の扉で閉じられており、入るために誓約書も書かされた。
要は「死んでも文句ない」「持ち帰ったものに税がかかる」ということだった。
ミナミやマサさん曰く、ゴギョウのレベルは見たことがないほど高く、そうそう危険な状況にもならないだろうという話だった。
ダンジョンの名前は『水中監獄』と呼ばれ、入り組んだ階層が地下へと広がっているらしい。
ダンジョンの中は至るところから浸水していて水浸しらしい。
季節は冬、ただで寒いダンジョンが凍えるようだという。
防寒具をマサさんに融通してもらったのでそれを着込んでモコモコになった。
「ちょっと動きづらいな…」
なんとかカエルの革を加工した耐水性も高い防具らしいが少し臭い。柔らかいブーツとポンチョのようなコート、毛皮の耳当て。
ゴギョウは踏み外さないよう一段づつゆっくりと階段を降りていく。
浅い階層はほとんど探索がされており、目当てのポーションが見つかるのは3階層より先だという。
階段が途切れた場所は薄暗いがらんとした四角い部屋だった。部屋の角の崩れた壁から一階層づつ順に進んでいっても良いのだが、マサさんの話ではこの部屋にショートカットがあるらしい。
崩れた壁の先を覗いてみると部屋のような綺麗な壁ではなく剥き出しの岩肌が染み出した水によって濡れていた。
岩肌の通路のすぐ脇にポッカリと大きな穴が空いていて、太い縄梯子が底へとぶら下がっていた。
踏み外して落ちないよう慎重に縄梯子を降りる。
ポチャン、ポチャン、と水の落ちる音が聞こえる。
上の螺旋階段も合わせるとかなりの深さまで降りてきたように感じるが、3階層はそれでもまだたどり着かない。
ダンジョン内は自然の輝石が岩肌からのぞいていて真っ暗闇というわけではないが決して明るいわけでもない。
螺旋階段を降り始めて一時間、ようやく縄梯子を取り切ることができた。ここから先はほとんどマッピングもなされておらず、ゼロからではないがほぼ未知の領域らしい。
浅い階層だけではあるがここに住まう凶暴な生物の情報も教えてもらっている。
もしかしたら未知の生物もいるかもしれないがゴギョウはとにかく散策を開始する。
薄暗く湿った通路を息を白くしてソロリソロリと歩いて進む。
背後は崩れた階段のようで、おそらく上の階層につながっているのだろう。ここがどれだけの広さかはわからないが目の前の通路の先は暗闇になっていて、その先は見えない。
右手にはショートソードが握られ、臨戦体制。
通路の先からコツコツと硬質な靴音がする。ゴギョウへと近づいてくるようだ。
暗闇から突然現れたのは子供ほどの大きさの黒いローブ。深く被ったフードの奥は見えない。
ゴギョウとの距離が5メートルほどになると急に駆け出してきた。
ガツガツと足元を鳴らし飛びかかってくる。
ガシャッ
スキルの壁に阻まれ黒ローブは両腕輪広げたまま宙に浮いた形になる。
ハードの中身は汚れた髑髏であった。手には粗末なナイフが握られている。刃が欠け、ガタガタのナイフ。あんなもので切りつけられたらただの怪我では済まないだろう。
カタカタと歯を鳴らし何度も張り上げたナイフでスキルの壁を殴ってくる。
コツコツという足音は骨が濡れた岩の床を鳴らす音だったらしい。
壁越しにショートソードで切りつけてみたが、想像以上に硬くローブに切り込みが入っただけで骨の体を断ち切ることは出来なかった。
「こわっ…」
ゴギョウはボソリと呟いて何度も切りつけたり、突いたりしてみたが、どうやら毒も効果がないようで関節を狙って何度も切りつけてバラバラになって動かなくなるまでかなりの時間がかかった。
そうしている内に奥から更に二体のローブ骸骨が走り寄ってくる。
とりあえずスキルの壁に阻まれこちらに攻撃は届かなそうなのでそのまま前へと進み始めるのだった。
薄暗い通路はスキルの壁を殴る喧しい音ばかりが響いていた。
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