第37話 水の街フローラ 調査隊と拠点2
マサさん。37歳。眼鏡に短髪で少し厚めの唇。背丈はゴギョウより少し低い170くらいだろうか。シンプルな木綿のパンツとシャツに革製の膝当てと脛当て、毛皮のマントを羽織っている。腰には金属で補強された木製のトンカチがぶら下がっている。
転移が始まった四年前、ほとんど最初の頃に転移してきたらしい。
「さて、何から話そうかねえ」
「ざっくりはミナミから聞きました」
「うーん、ゴギョウ君、君は細かい数字とかも知りたいタイプ?」
「いえ、どうせすぐ忘れちゃうしそんなには…。でも必要なことなら知りたいです」
「うん、たぶん必要ないね。具体的に何時間何分プレイしたらこちらでは何日かだなんて、知ったところでだからね」
「はい」
「まず、転移が後の人間ほどあるメリットがあるんだよ」
所持品などは実体験やミナミからの話で十分理解ができた。ゴギョウの認識も間違ってはいなさそうだ。
最も大きなメリットはスキルポイントだった。転移が後、つまりプレイ時間が長いほど転移した時点での所持ポイントが多く、自身のスキルなどを容易に強化できることだった。
本来ならレベルアップで得られる僅かなポイントのみを使用するのだが、それに頼らずレベルが低くても強化が可能になる。
「ところでスキルってどうやって覚えるんですか?」
「経験だねえ。そのスキルにまつわる行動や、モンスターを倒したりしたらスキルツリーに新しい選択肢が増えるはずだよ。君、相当長くプレイしてたみたいだしその辺はわからないかな?」
「いや、その、ほとんど地面を掘ったり木を切ったりしかしてないんですよね…」
「ああ、ミナミちゃんが言ってたねえ。クラフトスキルにポイント振ったの?」
「いいえ、まったく。そんな大したことはやってないですし」
実際、ほとんど穴を掘ってばかりだし。
「なるほど、じゃあ君のクラフトはプレイヤースキルによるものって感じかな。一応クラフトスキルが高いとこの眼鏡や、建物もレンガやコンクリートも簡単に作れるようになるよ。基本的なスキルもまとめたノートがあるから後でもっていくといいよ」
「それは助かりますね!ありがとうございます!」
「いやいや、それと、だ…」
マサさんがメガネをくい、と押し上げながら言葉を溜める。
「この世界でできること、できないことと……やること、についてだが」
まるでこれが本題だ、というようにマサさんは教えてくれた。
まず、この転移は何者かの意思によって行われたと思われること。
はじめに転移した2〜3人だけがその“何者か”から直接話を聞かされたらしい。しかし、その数人は転移直後の混乱から生存を果たすことができず、今はもう亡くなっているとこのと。
伝聞に伝聞を重ね、憶測も合わせた上でマサさんたちに伝わった「転移の目的」とは。
「所謂、陣取りゲームだよ。」
「陣取り?」
「そう。簡単に言うと我々人間と友好的な獣人たちのチームと、モンスターや魔族というチームがそれぞれの領土を奪い合っているんだ。どちらでもない獣や動物、竜なんかもいるけれど、この争いには参加していない」
「あ…竜…」
「竜はこちらから手を出さない限り何もしてこない。敵意を持って攻撃しない限り真横を歩いたって平気だよ」
「わかりました…」
毒沼の古竜はかなり凶悪な顔をしていたけど、あれ大人しい生き物だったのか…。なんだか悪いことをした。
「そういえば転移者って嫌われてるんですか?村にいた時はそんなの感じませんでしたけど」
「はいはい、それはね。転移してきた頃と同じタイミングで、モンスターの数が増えたんだ。それを俺たちに何か原因があるんじゃないかって思われてるんだよ。
実際この世界の人たちはレベルが低い。そりゃ死んだら終わりなんだからわざわざ危険なレベル上げを積極的にする人なんていないんだけど、それはモンスターや危険な獣なんかの数は人の暮らすエリアにはそんなにたくさんいなかった、と理由もあるみたいでね」
「せいぜい10くらいだって書きましたね」
「そうだ、生活にはちょうどいいレベルだし、そんな危険な戦いなんて必要ないからね」
「じゃあ嫌われてるのは?」
「この街にモンスターが大群で攻めてきたんだよ。その時に結構な被害が出てね、もちろん俺たちや街の人も一緒に抵抗したんだけどね」
その戦いて幾らかの死人が出たものの、すぐに街を囲う壁が築かれた。
その後壁越しにモンスターが絶えず現れ、転移者がそれを狩り続けた。
そんな中で街の人々からモンスターを連れてきたのは突然別の世界から現れた転移者だ、という声が上がり転移者の立場がどんどん悪くなっていったらしい。
一年ほどモンスターと戦い続けると現れるモンスターが減り始めた。その頃街の転移者30人のうち20人以上がモンスターを狩ってまわるという建前で街から姿を消した。
現在ここの拠点に残っているのはマサさん、ミナミ、ユニコの三人と街の警備やダンジョンを調べているという六人だけらしい。
その夜は久しぶりの元の世界の仲間、そしてこれ以上ゲームをプレイし続けているような人間がいるとは思われないため最後の転移者であろうゴギョウの歓迎会として食事をすることとなった。
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