第34話 開通!
壁の修理を終えたゴギョウはそれから数日、トンネルを掘り続けた。
ひたすらに穴を掘り続け、山の反対、街側にたどり着いたのは実を言うと1日目である。ミナミが街の仲間と連絡をとる段取りをつけたその日にトンネルを開通させてしまった。
しかし、トンネルをさらに広く拡張し、掘り出した大量の石材を使用して崩落を防ぐようにトンネル内に敷き詰めていく。
輝石も一定間隔ではめ込んでいき、そこを通る人間が魔力を通せばいつでも明るく照らされる。
トンネルは全長約20キロほど。徒歩なら5時間ほどで抜けることができる。
ルッカはゴギョウの手伝いでも、と思ったのだがトンネル内の装飾にこだわり始めたあたりから呆れるを通り越して無の表情である。
ゴギョウはそういう生き物なのだ。穴を掘る魔道具みたいなものなのだと言い聞かせ明かりを持って後ろをついていくだけであった。
とうとう街側の入り口を広げ、トンネルとして開通させるその日、荷馬車に乗った村長と村の入り口にいたサットルの2人が様子を見にきた。
村と街が安全に行き来できるようになれば村側の未開の草原も開拓が進む。
山を貫通する道ができれば危険な山道を行かなくて済むとなれば村長も気になっていた。
はじめは何を言っているのか、信じられなかったのだが日に日に長くなるトンネルを見て村長だけでなく村の住民全てがそわそわし始めた。
掘り始めて7日、床は踏み固められた土、壁や天井は石材をアーチ状に組み上げ一定間隔で輝石が天井にはめ込まれた立派なトンネルが完成した。
ほとんど真っ直ぐなトンネルの内部には数カ所の広場も作られている。幅はおよそ8メートル、高さも8メートルはある。馬車もすれ違うことができそうだ。
地下へ繋がる道は隠されて正確な位置はゴギョウにしかわからなくなっていて、知らずに誰かが迷い込むこともないだろう。
「成し遂げた…!」
満足そうに村側の入り口で鼻を鳴らすゴギョウ。
「本当にやり切るとはおもいませんでしたよ!すごいです!」
「ふふん、そうだろう?もっと褒めたまえ」
ルッカにも褒められゴギョウは調子に乗っている。
その後ろで村長など村人も集まりわいわいと騒ぎながら完成を喜んだ。
村の名物であるミズシイタケは日持ちがせず街に出て売ろうにも、山を越えて街に着く頃にはダメになっていたのだ。
開拓をするにもこれほど便利な道があるならさらに発展が見込める。
「ゴギョウさん、このトンネルの名前はどうするおつもりですか?」
すっかり丁寧に対応をするようになった村長。
「名前?」
「ええ、これだけ立派なものです。道に名前がつくならここにも必要でしょう」
「いや…なんにも考えてないけど」
途中から掘ることが楽しくなりすぎて、無心になりすぎていた。
細かいことは村長に任せてゴギョウは明日にでも街へ行くつもりだ。
ちょうど昨日、街からの行商隊が山道を越えて村に来ていた。ミナミはそれに乗って帰るつもりだったらしく、ゴギョウも便乗させてもらうことにした。
街側から出たらその出入口から街まで道を作る整地が待っているのだ。
山の裾は森が広がり、そこを抜けると平原がずっと続いているらしい。
そして非常に大きな湖があると言う。
その湖のほとりと、橋で繋がった島に大きな街が栄えているらしい。
山や湖によってたくさんの恵みがもたらされ、特に湖からの資源が豊富だそうだ。
「ミナミ、なんて街だっけ?」
「フローラよ。水の街フローラ」
「そこにミナミの知り合いがいるんだよね?」
「そうよ、もう連絡はしてあるからすぐに会えると思う。今後のこともあるし一緒に来てもらうわよ」
「うん、その方が僕も助かるよ、ありがとう」
ひとまず村に戻り、出発の支度と挨拶をして回るゴギョウ。
短い間ではあったし、ほとんどトンネルを掘っていたので特に交流もなかったのだが、村長、オババ、宿のテト、エルフのおかみさんには世話になった。
街へ行っても往来はこれまでより楽になったし、沼地の拠点に戻るときにまた寄るだろうから、そんなにかしこまってどうこうしたものではないのだが。
ゴギョウにしてみれば転移後はじめての人間ということもあり印象は強く残ったのだ。
最後にオババからひとつ、アドバイスをもらった。
「おぬしのその装備じゃが…、少々危険な印象が強いでな。街じゃ出来るだけ隠した方が良いかもしれんぞ」
「危険ですか…」
たしかに色合いも毒々しいし、盾やショートソードは毒付与の効果もある。
「て言うか、どう見ても悪者よね」
背後でルッカを抱いたミナミが言い放つ。
いつのまにかルッカとミナミが仲良くなったようだ。ルッカは少し小さいカピバラみたいで毛は柔らかくもふもふだしな…。
「えっ、そんなに悪そう?上からマントでも羽織ろうかな…」
「その方がいいんじゃない?」
「今はいいけど夏は暑そうだな…」
夏があるのか知らないけど。
ゴギョウはエルフのおかみさんからウルフの毛皮のマントを購入して羽織り、ミナミとルッカと共に馬車に乗り込んだ。ついでに街に村のミズシイタケを持っていくため村の入り口にいつもいたサットルも一緒に乗り込む。
ついでに街にトンネルができたことも伝えにいくらしい。
こうして馬車は平らに均されたトンネルを大きく揺れることもなく快適に走り出した。
ちなみにトンネルは『フロート開拓村隧道』と言う名がつけられていた。
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