第33話 通信魔道具
ゴギョウという男が今朝早くから粗末なピッケルを担いで掘り進めているトンネルへと出かけていった。
連れのような、ルッカという名のねずみもついて行ったようだ。
トンネルを掘るなんて馬鹿馬鹿しい話は置いておいて、半月もすればこの村にも山を越えて街から行商が来るだろう。
その時に行商人とともに山を越えればいい。
と、いうわけで、私はテトという女の子のやっている宿で遅めの朝食をいただいている。
「ミナミさんも、ゴギョウさんと同じ転位者なんですよね?」
一通りの仕事を終えたらしい宿の主、テトが同じテーブルに座りお茶を飲みながら話しかけてくる。
「そうね、でも別に知り合いってわけじゃないわよ?」
「同じところから来られたんじゃないんですか?」
「うーん、同じっちゃ同じなんだけど…同じ国ってだけで、直接会ったり話したりしたことがあるわけじゃないからね」
「ああ、そうですね。私も知り合いなんてこの村の人たちだけですし」
「でも街には知り合いもいたわよ。こっちの世界で初めて会ったんだけどね」
「初めて会ったのに、知り合いですか…?」
「なんて言ったらいいのかな…うーん、オンラインで…わかんないか。通信…?みたいなやつで話はしたことあったって言うか…」
ミナミが転移してすぐ、他のゲームでフレンドになった仲間が数人、同じくクラフトアドベンチャーオンラインから転移していたのだ。
運良くプレイを中断したタイミングがほぼ同じで、しかも街の近くに転移していた。
近い場所に転移していたことはクラフトアドベンチャー内でも一緒に行動していたことが関係あるのでは、と考えられる。研究グループもそんなことを言っていた。
転移してきたフレンドは2人いて、同じ歳の高校生の女の子、二十歳の既婚女性だった。今頃街の拠点でミナミのことを心配しているかもしれない。
「通信…?魔法の道具でしょうか?たしか雑貨屋と村長の家にもあったものですかね」
「えっ、テトちゃん!この村にあるの?」
「ええ、ありますよ。私は使ったことないですけど。雑貨屋のおかみさんは行商の方と連絡を取り合っていますし、村長の家の通信魔道具は街に行った村の人とやりとりするみたいで、みんなもよく使わせてもらってるらしいですよ」
「よかった!街にいる仲間と連絡を取りたいのよ!無事だって知らせたいし!」
テトちゃんに村長の家と雑貨屋の場所を教えてもらって宿を出る。
村のわりにかなり広いのだが住居はそんなに離れていないのですぐに着いた。
村長の家の扉を叩いてみるが反応はない。
「留守なのかな…?」
もしかしたら農作業なんかしているのかもしれない。
じゃあ雑貨屋に行ってみよう。
「ごめんくださ〜い…」
開け放たれた扉から顔だけを覗かせて声をかける。
店内は開けられた扉や窓からの自然光だけで、少し薄暗い。人影はない。
すると、奥の方から「はーい」、と声がして店主らしき人物が現れた。
「おや、昨日来たって言う転位者さんね!可愛らしい娘さんね!」
なんだかすごく元気のいいオバちゃんだった。
おかみさん、とテトちゃんが言っていたので…体型は、うん、オバちゃんだな…。
しかし、よく見てみると耳が…。
「エルフ…?」
「そうだよ!なんだい、変な髪型のにいちゃんと同じ反応だね」
変な髪型…?ゴギョウのことかな?たしかにもじゃもじゃに輝石のついた紐をヘッドライトみたいに巻いていたから汚い瓢箪みたいになっていたもんな。しかも歩くたびに揺れる。
「あの、ここに通信のできる魔道具があるって聞いたんですけど…」
「ああ、あるさね。でもうちのは山の向こうの町にある、仕入れをしてる店としか繋がらないよ」
「いえ、構いません。代金はお支払いしますので使わせていただけませんか?」
「いいよいいよ!通信代なんていらないから使って構わないさ。そのかわり何か買ってっておくれよ!」
「ありがとうございます!あ、魔石って置いてますか?」
魔道具はMP、マジックポイントを消費するか、マジックポイントの詰まった魔石を消費して使用する。
マジックポイントと言うが正確に数字で見られるわけではないので違う表現の方がいいような気もするが…。
ミナミはステータスの魔力が少なめなのでMPも少ない。
通信魔道具で向こうのお店の人に言伝を頼むつもりだが、念のため途中で切れないように魔石も握りしめておく。
なんとか連絡を取ることができた。
と言っても、お店の人にミナミたちの拠点に折り返し連絡をしてほしい旨のメモを届けてもらい、また明日の昼頃改めてお店の通信魔道具を使って石壁の村の雑貨屋に通信してもらうのだ。
スマホがあればなあ、なんて感情はもうないのだ。そんな感情はこの世界にきて一年くらいでなくなった。
エルフのおかみさんにお礼を伝え、また明日の昼に通信魔道具を使わせてもらう約束をした。
ついでにしばらくこの村に滞在しそうなので着替えや消耗品も購入して宿に戻るのであった。
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