第32話 壁の修理と
食事の後ミナミとの話で分かったことがいくつかあった。
・転移者は確認できた人数で100人程度、ゴギョウがおそらく一番遅い。
・そのうち半分はすでに死亡している。
・生存者はいくつかのグループに分かれていて、ミナミのあるグループはこの世界に馴染もうとする平和的なグループ。他には研究や探索をするグループ、戦闘に特化した冒険者グループなど。
翌朝、ゴギョウは一人で壁の修理に向かう。トンネル掘りのおかげで修理に使う石材は山ほどある。
村と畑、山側に広がる林をぐるりと囲むような石の壁はその日、一日で修理完了となった。
修理の様子を眺めていたミナミはゴギョウのクラフトスキルにまた呆れることとなる。
「あんた、やっぱりおかしくない?片手でどうしてあんな早くできるの?」
傍目に見ればゴギョウは片腕をだらりと下ろしたまま右腕だけで石材の配置や加工を行っていた。
適当にしているようにしか見えない。
クラフトスキルによる作業は転位者だけができることで、村の人間からしたらそういう魔法のようにさえ感じられる。
何もないところを指差してひらひらさせていると突然崩れた壁にブロックが現れかけた壁を埋めていく。
この石壁が初めて築かれた3年ほど前の時は村人全員が腰を抜かすほど驚いたものである。
これもミナミに聞いたことだが、ゴギョウのレベルが高すぎるという事実。
もともと村人やこの世界の人々のレベルはせいぜい10。高くても20にまで届かない。
転位者はレベルが上がりやすいのか、この村にきた者で25を超えていたらしい。
それにしてもゴギョウの58は異常であった。
そのことは村のオババに聞かされていたので、ミナミには25だと言ってある。ちなみにミナミは22だった。
ゴギョウの装備や、片腕でもかなり戦えていることとレベルについて違和感はないようだった。
これもミナミからの情報だが、後に転移してきた者程、初期のスキルポイントにボーナスがあるらしい。所持品やスタッシュボックスのアイテムも転移前と同じになるそうで、ゴギョウのように石や木材、植物ばかり持っていた転位者はほとんどいなかったらしい。
もちろん青い篝火を持っていたプレイヤーは一人もいなかった。
どちらにしろ、大きな街へ行って動かせないゴギョウの左腕や拠点にいるねずみ…ではなくヌート族のオームの脚を診てもらいたい。
「よし!ミナミ!トンネル掘るか!」
「は?」
壁の修理の終わった翌日、元気よくゴギョウが宣言するとまたミナミは呆れたような返事をする。
「どうしてまたあなたなんて掘るのよ?」
「どうしてって…まだ途中だし…」
「あんた、街へ行くんでしょ?一人じゃ山越えはキツいからあんたも一緒にきてよ!」
「ええ、山登りはしんどいなあ。掘ったほうが早くない?」
なぜだろう、ミナミに冷たい目を向けられているような。
「ミナミ殿、無駄ですよ。ゴギョウ殿は穴掘りや道作りに関してはちょっとおかしいのです…」
いつのまにかルッカとミナミが仲良く?なっていた。
そして二人して視線が冷たい。
「楽しいのに…」
どちらにしてもゴギョウはトンネルを掘ることを止めるつもりはない。
街側に開通した時のことを考えるだけで胸が熱くなるではないか。
呆れている二人を他所に、ゴギョウはいそいそと支度を始めたのだった。
ちなみにゴギョウはミナミからの名前を呼ぶ時に“さん”はつけなくてもいいと言われ気軽く呼ぶことにしたのだ。
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