第31話 転位者たち
またミナミが大きく口を開けて放心している。
ゴギョウは何かおかしなことを言っただろうか、考えてみたのだがわからない。
「あんた、どうして篝火なんて持ってたのよ!」
「どうしてって、初期所有アイテムじゃないか。みんな持ってるだろう?」
「普通はプレイ開始して割とすぐに使っちゃうもんでしょ?それなのに…」
ゴギョウは穴掘りや整地ばかりで、まだ拠点を決めていなかった。それで80時間もプレイしながら青い篝火も使用せずにとっておいたのだ。
いずれは気に入った場所に拠点を構えようとしていたのだが、クラフトワールドオンラインではその気に入った場所には結局出会っていなかった。
転移した毒の沼地にその拠点を構えてしまったのはそうするしかなかったからで、理想とはかけ離れてしまったのだが。
とりあえず、ゴギョウはこの世界についてよくわかっていなかった。
まだ転移をしてきてまだ2ヶ月もたっていない。
「ミナミさん、ぼくはまだこの世界についてほぼわからないことだらけなんだよね。よかったらわかってることだけでも教えてもらえないだろうか?」
ミナミも転移してきてすぐの頃、訳もわからないことだらけで他の転移者とともに混乱をしたのを思い出した。
ゴギョウという男の使用した青い篝火のことも含めて思案の末、自分たちの置かれた状況について話し始めた。
「まず…、初めて転移してきた人は4年くらい前だったって聞いてるわ…」
ゴギョウがこの村のオババから聞いたのもそれくらいであった。
「私は3年半くらい前。一番多く転移した人がいたのはその4年前から3年半前くらいの半年間くらい」
「で、この転移してきた人の話をまとめてみたら、クラフトワールドオンラインが発売されて、連続プレイ時間が30時間以上の人ばかりだったの」
「プレイを始めた時間は関係なく、30時間経ってゲームを辞めると4年くらい前の日に転移してくるようになってたみたい」
「30時間以上連続プレイを続けてゲームを止めると、その30時間より経過した時間でこの世界に転移してくる時間がずれるらしいのよ」
ゴギョウはうんうんと相槌を返しながら聞いていたが、
「ずれるって、どんくらいだ?」
「私も詳しい時間は覚えてないわ。たしか、40時間プレイすると30時間で転移してきた人の、だいたい10ヶ月後とかだったけど…」
「てことは、僕は4年くらい経ってから転移してきたのは相当長くプレイし続けてたってことか…」
ミナミはため息をつきながら、
「はぁ、そうよ。いい歳してあんた、何時間やってたのよ。だいたい仕事は何やってたのよ?」
「無職だ」
「何ドヤ顔してんのよ!馬鹿じゃないの」
それについてはゴギョウも反論の余地はない。30前の男が無職でゲームを休みなくやり続けたのだ。
ひと月少し前のことだが、もっと、ずいぶん昔のように感じる。
しかし、転移前と転移後の世界は時間のずれがかなりあったことがわかる。
それならば真夏からいきなり真冬のような寒さになったことも理解ができる。
「そういうミナミさんも転移をしてしまったってことは、30時間以上もゲームやり続けたってことでしょう?若そうですけど何歳だったんです?」
「高校生だったから夏休みだったのよ。転移してきた時は16歳。」
今は19〜20歳くらいか。最初の印象通りの年齢でゴギョウは納得する。
「ちょうどその半年くらいが経って、状況がなんとなくわかってきた時期に私は転移してきたからなんとか死なないで済んだのよ。先に転移してきた人たちが何人もモンスターに殺されたり、“悪さ”をしてこの世界の人たちに捕まって、この世界の法律みたいなので裁かれたりして。それで、まともな人たちが集まって身を守るためにグループになってたから」
何か色々と思い出すのか、ミナミは少しだけ暗い表情になる。
「この山の向こうにある街で転移者たちのコミュニティがあるってことなのかな?」
「そうよ。転移の条件なんかを調べてる人たちがいるから本当に詳しいことは私、あんまりわからないの」
少しづつ状況について知ることができたが、わかっていることはまだまだありそうだ。改めてゴギョウは街へ行かねば、と考える。
そうしていると横で退屈そうにしていたルッカが突然体を起こして鼻をひくひくとさせる。
「ゴギョウ殿!食事にしましょう!いい匂いがしてきましたよ!」
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