第35話 水の街へ



 トンネルの入り口で石壁の村側が“フローラ開拓村隧道 村口”。フローラの街側が“フローラ開拓村隧道 フローラ口”。


 むらぐち、フローラぐち、と呼ばれることになった。


 ゴギョウ達馬車ははフローラ側の入り口に出ると転位者であるゴギョウとミナミによって林が切り開かれた。


 トンネルの入り口は山の中腹にあり木々に囲まれる場所だった。

 緩やかな傾斜で、街まではもうしばらくの距離がありそうだった。



「この辺置いとくわよ」


「ああ、ありがとうございます。こっちが終わったら手伝いに行きますね」


 それなりの広さに切り開かれた入り口周辺に伐採し木材ブロックになった素材をミナミが積み上げている。


 厩や休憩に使える簡単な掘建て小屋をゴギョウが建てる。


「ゴギョウ殿、また生き生きし始めましたね…」


 ミナミの後をついていくルッカが呆れながら見上げる。

 ミナミは木を切り、アイテムストレージに収納する。転位者の手にかかれば切り株もなく地面に穴が空き、地肌があらわになる。

 行商人達から見ればもはや魔法のようにすら見える。

 空いた穴はトンネルを掘った時に出た土を流し込んで塞ぐ。


「あの人、前からあんななの?」


「そうですね、沼地の家などは畑もありますし、かなり快適に整備されておりました」


「篝火の安全地帯の中にいればもう生きていけそうね…」


「あと、そこから村までの道も沼地を平らにして、立派な街道のようにされていました。ゴギョウ殿はそのような作業がよほど好きなのでしょうね…」


「道まで?…この後の街まで整地もあいつ1人でよさそうね」


 ミナミのクラフトスキルもなかなかのものであるが、ゴギョウと比べると並み以下に感じてしまう。

 ゲームのシステムとしてのスキルではなく、おそらくプレイヤースキルとしての差がかなりあるのだろう。



 ゴギョウは黙々と作業を進める。

 入り口のそばを平らに均し、石材も使用して小屋の基礎を組み上げる。地面から少し浮かせるようにして床を張り10畳ほどの部屋が3つもある平家を一軒。中には暖炉やテーブルや椅子、簡単な棚なども設置。ベッドは数を作るのが面倒だったので、部屋の1つに小上がりを作った。

 ガラスは使わないで木枠の窓や扉もつけていく。

 この世界では手に入らないという水源ブロックも使い小さな滝を山肌に作り、飲み水などにも使えるようにした。沼地の拠点に戻れば水源ブロックはまだ沢山あるのだ。


 この位置から街は見えないだろうかと物見櫓まで組み始めた。10メートルくらいの高さまで木の柱を組み上げ、ジグザグに登る階段をつけ、上の足場には屋根までつけた。


 その頃にはミナミは採集をやめて小屋の中で行商人たちとくつろいでいる。


「いつまでやるんですかね…」


 サットルや行商のオヤジは特にやることもないので待ちぼうけである。


「ここって山のどの辺なのかしら?街まではまだかかるの?」


「この傾斜なら山に登る、という感じでもないですし、山のモンスターも見当たりません。おそらく1、2時間もあれば街が見えるくらいだとは思いますが」


「なら出来るだけ急ぎたいもんだな。ミズシイタケもダメになってしまう」


 サットルも本当は急ぎたいのだがこの林を抜けるのは馬車ではきつそうなので道を簡単に作れる転位者待ちが現状なのだ。



 満足したのか、窓から物見櫓から降りてくるゴギョウが見えるとミナミは大声を出す。


「ねえ!そろそろ街に帰りたいから道を作ってよ!」


「りょうかーい!…ところで街はどこにあるんだー?」


 どうやら櫓からは街が見えなかったらしい。

 行商人の1人が物見櫓に登り周辺の景色を確認する。遠くに湖が見えることや、山の形などから方角に当たりをつける。

 傾斜が少ない方向を選んで、まずは草原を目指すことにした。案内を受けながらゴギョウは林を切り開き、道のようなものを拵えながら進むのだった。


 しばらくして林が切れ、草原が姿を現した。沼地や村の方と比べると、そこまで寒さはないようだがそれでも季節はまだ冬のようで木々がない分風は冷たいが日差しは暖かいように感じられる。 


 草原の先に土が剥げただけの街道が見える。


「ここまで来れば街まではすぐですね、思ったよりも近いところで安心しました」


 ここからはゴギョウも馬車に乗り込み、行商人は馬を走らせた。

 草原を抜け土道に出るとガタガタを車体を揺らしながら進む。


「この道結構ガタガタなんだな…」


 ゴギョウはポツリと呟くとルッカぎ素早く反応した。


「ゴギョウ殿!今日のところはやめておきましょう!ね!ね!」


「ん?そうか?でもすぐできるぞ」


「ダメです!ミナミ殿もはやくお仲間に会いたいでしょうし今は我慢してください!」


「ああ、そうだな。また帰る時にしようか」


 馬車の一同はため息を吐いて、ゴギョウのおかしい整地への熱意に呆れるのであった。 


 道を走り始めて1時間はたった頃、途方もなく大きな湖が見えた。

 そのほとりを走りながら小高い丘の傍を曲がると景色はわっ、と開ける。


 まるで海かと思うほど水平線の広がる大きな湖。

 そこの一箇所に街が見えた。身を寄せ合うように建てられた建物たち。そこから伸びる大きな石橋の先に浮かんでいるような島に塀で囲まれた街が見えた。


 島の周りには沢山の船が浮かび、水の上を行き交っている。


 ゴギョウが転移しておそよふた月。ようやくこの世界を知る転位者のあるであろう場所へとたどり着いたのだった。





 


 

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