第25話 廃坑街 大蛭
浴場の蛭を全て片付け、ゴギョウはどんどん解体していく。
アイテムストレージに収納された蛭の素材は「石舐め蛭」の皮や血、肉、牙といったものだった。
あの気持ちの悪い、大きな蛭の名前は石舐め蛭。よくわからんが、ここが廃坑街だから鉱石がその蛭の名前の由来になるのだろう。
何に使えるかわからないが、とりあえず拾えるだけ拾っておく。必要なければボッカに売れば良いのだ。
蛭の素材は意外に何かめぼしいものがないかゴギョウは浴場を散策する。が、特に何もない。
水は蛭の体液が混ざっているのか、ヌメヌメとしているように見える。直に手で触れて確かめる勇気はない。しかも生臭い。
きた道を戻り、もう一方の通路に進んでみるかと考えたその瞬間、壁の方から大きな音がした。
バチンバチンと何かを叩きつけるような音。壁が揺れている。
どうもあの壁の向こうで何かを叩くような感触だ。
わずかな振動とともに何度もバチンバチンと繰り返され、とうとう壁が崩れ始めた。
ガラガラと派手な音を立てながら崩れる壁。ここが浴場で湿気があるせいか土煙のようなものはほとんどない。
壁が崩れポッカリと空いた向こうに大きな塊が見える。表面は湿ってぬらぬらと光り、脈打つように震えている。
とても巨大な蛭。こちら側にいた蛭も大きかったが、壁の向こう側から姿を現した蛭は輪をかけて大きい。
ゴギョウが見上げるほど肉厚で横幅も5メートルはありそうだ。
巨大蛭が体を持ち上げ先端の、牙が生えた口を見せる。
そして巨大な体を叩きつけ、大きな音を立てながらこちらへ近づいてくる。
叩きつけた際に崩れた壁のかけらが弾かれゴギョウに向かって飛んできた。
飛んできたのは小石程度の大きさであったが、毒沼の古竜のスキルの壁をすり抜け、ゴギョウの体に当たる。
「いっ…!…って、アレ?」
スキルの壁が機能していない?いや、ただの石だからか?
先の蛭が天井から落ちてきた時はきちんとガードされていたし、蛭の体液なども遮られていた。
しかし、弾かれた石はゴギョウに当たった。その石は巨大蛭の“攻撃”ではなく、たまたまこちらに向かって飛んできただけで、スキルの壁の防御判定に当たらないのかもしれない。
巨大蛭は再び体を持ち上げ始めた。
ゴギョウはナイフを投げつける。
体は巨大でも表皮は変わらず柔らかいのか、サクっとナイフが刺さった。そして刺さった辺りの色が変色していく。
毒がこの巨大蛭にも効果はあるようだが、巨体すぎて効果が足りない。
ゴギョウはショートソード握る手に力を込め、巨大蛭の正面から側面に走り込み、斬りつけた。
ほとんど手応えがなく刃は蛭の体を切り裂いた。
毒が回っているのか、ナイフの刺さった部分やショートソードの切傷の辺りは白く変色し硬くなっているようだ。
痛みを感じるのか、巨大蛭は口のあった方、頭に当たる部分だろうか、苦しそうに振り回して涎を撒き散らしている。
その時に振り回している体はスキルの壁にぶつかり、ゴギョウには触れることはない。
しかし目の前至近距離で暴れる巨大な塊はなかなかの迫力がある。
「ヒイイッ」と情けない声を出してゴギョウは距離を取る。
瓦礫に足を取られ転んでしまった。
右手でショートソードを握り、左腕は満足に動かせないため受け身も取れずに別の瓦礫にゴギョウは頭をぶつけてしまった。
巨大蛭がのたうち回るビタンビタンという音を聞きながら、ゴギョウ意識を失ってしまったのだった。
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