第20話 廃坑街



 右の籠が降りて行くと、反対側の穴から同じような籠が迫り上がってきた。


 中は…何もいない。

 ゴギョウはショートソードを右手に持ったまま籠に入り、凸スイッチを踏み込んだ。今度こそ下へ降りてゆく。


 降りている間、ギャリギャリと鎖の音がかなりやかましい。

 その途中、籠の外は岩肌だったのだが、スピードが落ちてくる頃に大小の石を組み上げた石垣のようになってきた。



 ズンッ、と重そうな振動と共に底へたどり着いた。

 入口がガチャンといって横にスライドして開く。おそるおそるゴギョウは外へ出てみた。


 そこは石を積み重ねて作られた、部屋のようだった。ドアはなく明かりもない、上へ向かう籠のあるだけの部屋だった。

 ゴギョウはちょうど良い、とこの部屋にも青い薪を設置し、避難場所とした。




 籠の地下部屋は思ったよりも広く、壁は石を積み上げて作ってあり籠の降りてくる面は2つの穴が空いており、その反対側は青い薪を設置した出入口がある。床も石畳のようになっていてこの部屋はかなりしっかりしたつくりのようだ。


 ゴギョウは出入口から部屋の外を覗いてみる。

 そこは階段の踊り場のようになっていて、左手は上り、右手は下になっている。

 暗闇ではなく壁の所々に輝石埋め込まれているようでぼんやりと照らされている。階段や踊り場の幅は2メートルほどだろうか。


 悩んだ末、ゴギョウは左手の壁に体を寄せて階段を上ることにした。どちらにいっても背後から「なれはて坑夫」のようなモンスターに襲われる可能性がある。

 ならば奇襲は上からより下からの方が対応しやすいと思ったのだ。


 階段は瓦礫が散乱しており歩きやすくはない。石ころも多々あり歩く度にどうしても足が当たってしまうので音を立ててしまう。

 階段は上り方向に対して右にカーブしている。

 音に気をつけながら10段ほど登ったところでゴギョウは自分がかなり緊張していることに気がついた。


 この世界に来て戦闘は多々あったものの、拠点にいた頃や、石壁の村に着いてからも「冒険」ではなく「クラフト」がゴギョウにとってはメインであった。

 この地下の探索はゲームではほぼやらなかったことだ。


 一ヶ月以上この世界で生活し、何度も死にかけた。

 帰る方法があるのかどうかわからない。それならば、この世界に少しでも適応すべきではないか。

 毒沼の古竜のスキルはかなり強力で、特に加護や鱗のスキルは身を守るのにもうってつけだ。

 武器が使えるようになったのもより生存確率を上げてくれているだろう。


 クラフトスキルもかなりのチートだ。使わない手はない。

 この地下へ降りる鎖の擦れる音を聞きながらゴギョウはいくらか腹が座った。

 『この世界で生きていく』と。



 

 しかし、ビビリなのは変わらない。

 ショートソードを握ったまま、腕を落ちている石や瓦礫に向ける。


 武器を持ったままでも「収納」が行える。石ころの立てる音が気になるならその石をどかしてしまえばよい。

 クラフトスキルは何も作るだけではない。身を守るためや戦うことにも使っていかねば。


 ちなみに壁や階段などは壊したりできなかった。おそらくここのような「ダンジョン」的な場所の環境物をスキルでは全て破壊したりはできないのかもしれない。変なところはゲームっぽいんだな。


 20分ほど階段を上ると鉄の扉が現れた。チェーンと金属のかんぬきがかかっており反対側からは開けられないのだろう。

 チェーンは切らずとも普通に外すことができた。かんぬきも簡単に外れた。ダンジョンの影響下から離れたのかそれらをアイテムストレージに収納することができた。


 キィ…、と小さく鳴らしながら扉を引いて開ける。

 薄暗いが輝石のおかげで何とか見ることができる。右手がすり鉢状のクレーターになっていて、所々に四角いトンネルが掘られている。底は暗くて見えないが、ドアを出た広場に線路が敷いてある。

 天井はドームのようになっていて輝石が星のように瞬いている。



 アイテムストレージに収納した先程のチェーンとかんぬきを確認する。


『廃坑街の鎖』

『廃坑街の鉄塊』



 この場所の名前は『廃坑街』と云うらしい。


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