第14話 石壁の村 3




 その夜、ゴギョウは村の宿に泊まることとなった。

 こんな小さな村に宿があるのは、特産であるミズシイタケを求めて来る町の人間がそこそこいるからだという。

 また、山脈のこちら側はまだ開拓が進んでおらず、新天地を求める冒険者なども多いそうだ。

 山脈の向こう側は、大きな街や城があり、転移者もそちら側にいるという。


 以前、山に転移者たちが道を作り少し便利になったこともあり、この村は開拓の中継地として利用されているのだとか。


 宿に泊まったゴギョウであるが、金はない。この世界の通貨は銅貨、銀貨などファンタジーの話によく出て来るようなものらしい。

 今夜泊まる代金として、翌日に石壁の補修をする約束をした。

 この村の周辺は開拓が進んでいない地域の端にあるため時々モンスターが現れ特産のミズシイタケや他の農作物などが荒らされるらしいのだ。

 転移者の作った石壁はそれらから村を守る役目があり、壁ができてからは被害がほぼないらしい。

 しかし壁そのものは傷つき崩れそうな箇所もある。それを明日ゴギョウが直して回る。



「ところでゴギョウさん、その袋から出してあげないんですか?」


「あら、気付いてたんですか」


 もそもそとルッカが出て来る。


「テト!お久しぶりですね!」


「なんだ、知ってるのか?」


「はい!昔からワタシたちの集落とテトのご両親が商いの取引をしておりました!」


「はい、ルッカの持ってきてくれる沼地のハーブや調味料はとても人気があったんです。」



 しかし、この宿にその両親は見当たらない。


「父と母は壁ができる前になくなりました。もう3年ほど前になります」


「それは……すいません…」


「いえいえ、気にしないでください。亡くなったのは私の両親だけではないですしいつまでも落ち込んでもいられませんから!」


「何かあったんですか?」


「モンスターが増えたんです。山の向こうは少ないそうですけど、こちら側は人間もあまり住んでいませんし」



 テトの宿で出される食事はとても美味しかった。特に特産であるミズシイタケのスープは具も多く食べ応えがある。

 つるりとした食感に噛むほどに味が広がりいくらでも食べられそうだ。

 これを目当てに山を越える人がいるのも頷ける。



 


 翌朝ゴギョウはルッカを宿に残し、村の壁を見て回った。


 ひび割れた箇所、一部が欠けてしまっている箇所、崩れてしまっている箇所などなかなかにくたびれているようだ。

 転移者のクラフトスキルなしには維持にも限界があるのだろう。

 補修の必要な箇所をあらかた見終わった頃には昼を過ぎていた。一旦宿に戻り食事をしようかとゴギョウが歩いていると昨日のオババに呼び止められる。


「修理はどうですかの、直せそうですかのう?」


「あぁ、オババさん。一通り見て回ったので午後からは材料を集めようと思っています。」


「むふ、材料あつめか…、ならばオヌシのスキルを鑑定させて貰えんかのう」


「鑑定?」


「申し訳ないと思うたが昨日、門のところで少しだけ鑑定したんじゃ」


「あの時に?ああ、それで装備のことをなんとかって…」


「うむ、オヌシ、アレをどこで手に入れた?」



 昨日話をした時に毒沼の古竜のことは話していない。当然毒沼の古竜のショートソードや古竜のバックラーの素材はわからなったのだろう。


「説明がちょっとめんどくさいのですが…拠点にしている場所に青い篝火というアイテムを使っているのです。」


「青い篝火とな…?」


「はい、それを置いた一定の範囲ではそこは安全地帯になるんですが、それで毒沼の古竜という生物を圧死させてしまったようで…」


「青い篝火なんぞ、聞いたことがないの…他の転移者も持ってはおらなんだが…」


 他の転移者が持っていなかったのはおそらく、転移した瞬間は所持品のみゲームと同じで、既に使用してしまっていたからだと思われる。


 青い火の薪という似たような効果のアイテムもあるが、入手はまだレアドロップのみだったように思う。しかもどんなモンスターが落とすのかわかってはいなかった。


「あの、ところで鑑定はいいんでしょうか?」


 もしかしたら毒沼の古竜の蛇や鱗のスキル効果が詳しくわかるかもしれない。

 スキル効果は知らないと十分に発揮できないのだ。


「そうじゃったな、どれ…」



 村の占いオババは水晶のついた杖を掲げ、なにかを呟き始めたのだった。




 

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