第13話 石壁の村 2
ゴギョウが丘を登り、門の前に立つ男の元へ行く。
「ゴギョウといいます。はじめめして」
右手を差し出して握手を求めるが応じない。
まだ警戒は解かれていないようだ。
「貴様、転移者か?」
「…そのようです。気がついたら沼地にいて、情報が何もないので人里を探しています」
右手はまだ差し出したままだ。
「左腕は怪我で動かせません。治せる人も、探しています」
嘘はつかないで、正直に伝える。
「ここの石の壁も同じ転移者がしたことじゃないですか?」
「…!貴様、できるのか?」
「はい、一応できます。この肩当てや剣も自分でつくりました」
「ヒェッヘッヘッ、サットルや、大丈夫といったろう。その兄ちゃんには悪意はないよ、武器や防具は凶悪だけどねえ」
「えっ、これまずいやつですかね??」
「そうさね、肩当ては知らんが、その小さな盾と剣はかなりの呪いが見える…
毒の効果があるのだろうか?素材が素材だけになくはないように思う。
あまり触れてはよくないと思われるので装備から外し、アイテムストレージに収納した
「オババ…あの…」
サットルと呼ばれた男は老婆に告げる。
「む…そうじゃの…、立ち話もなんじゃ、こっちにくるとええ」
そう言って老婆について行くと一軒の家へ案内された。
そこはがらんとして大きなテーブルと椅子がいくつも並んでいた。
集会所のような場所だろうか。
椅子のひとつに腰をおろし、テーブルを挟んで老婆と対面する。
「ワシはこの村の相談役のようなことをしておる、オババと呼んでくれたらええよ。もうすぐ村長が来る、それまで待っておくれ」
「あっ、はい、わかりました」
すぐに扉が開かれて入ってきたのは水差しが乗った盆をもつ少女だった。
「オババさま、よかったらどうぞ」
「おや、テトかい。ありがとうね」
テトと呼ばれた少女はゴギョウにもお茶を注いでくれる。
歳は16、7くらいだろうか。栗色の長い髪をひとつにまとめいかにも村娘といった出で立ちの可愛らしい女の子だった。
「ありがとうございます、僕はゴギョウといいます」
「テトです」
短い返事をしてペコリと小さく頭を下げる。
テトはそのままオババの隣に座る。
しばらく無言でお茶をすすっていると再び扉が開けられ、白いちょび髭で短髪の老人が入ってきた。
カツカツと床を鳴らし、とても老人とは思えないほど元気に歩く。
「待たせたな!村長のマツだ!ほう、お前さんが転移者か!なかなか若そうだな!この街に来た転移者は5人目だ!お前さんは何を作れるんだ?壁か?家か?畑か?農具か?」
入ってくるなり大声で自己紹介をしたかと思えばどんどん喋る。うるさい。
「はじめまして、ゴギョウといいます。5人目とおっしゃいましたか?転移した人ってそんなにいるんですか?」
「たくさんいるらしいぞ!大きな街にでもいけば会えるんじゃないかのう?」
「マツよ、少し落ち着かんか。さて、ゴギョウ殿、この世界にやってきた時と、ここにくるまで何があったか教えてもらえんかの?」
オババがすぐに会話を本題へともっていった。
ゴギョウはこれまで、ひと月半ほど前に沼地に立っていて、そこにある道具を使って安全地帯を作り、そこを拠点としたが、蛇に襲われヌート族を助けたこと。そして情報を求めてここまできたこと。
ざっくりとかいつまんで話した。装備が凶悪に見えたのは、おそらく毒の属性があるからではないか、と話した。
「ふむ。転移者かこの世界に来た時、様々な場所に現れると聞く。町の中や草原や、山や海、いろんなところに1人づつ現れたらしい。」
「へえ」
気のなさそうな返事を返したが、その状況はクラフトアドベンチャーワールドのゲームスタート時にランダムな場所でスタートすることに似ていた。
そして、そうやってこの世界にやってきた転移者たちはやはり、不思議な作り方で様々なものを作るらしい。
これもゲームのシステムを使っていると思われる。
この世界に何人がやってきたのだろう。そして今は何をしているのだろう。帰ることはできるのだろうか?
他の転移者についてグッと現実味が帯びてきてゴギョウは思考を巡らす。
村長のマツは気になる一言を発した。
「確か初めて転移者が見つかったのは、4年くらい前だったと思うぞ!」
「……?4年…?」
どういうことだ?そんな昔にはクラフトアドベンチャーワールドは発売されていない。
一体、どういうことなんだ!
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