第12話 石壁の村
緩やかな丘を登る。
大きな山脈の麓、森と隣接した村は山を背にして田畑が広がり、四角いブロックを重ねたような壁に囲まれている。
ブロックの壁は森にまで達し、壁に囲まれた範囲に住居や田畑、森がある。
村の脇からは山を登るように一直線に切り開かれ、どこか不自然に見える。
「ゴギョウ殿!ワタシはあちらの湖の木のあたりで待っております!」
ルッカは村から少し離れた伊豆海を指差す。
「一緒に行かないのか?」
「ええ、ワタシは見た目がこんななので人間に驚かれてしまうんですよ!」
「へえ、そうなのか、だから沼地とで暮らしてたのか?」
「冒険者や行商の方は大丈夫なんですけどね、町や村で暮らす人たちから見たら珍しいのでしょう」
まあ、しゃべるネズミだもんな…とこっそり考えるゴギョウ。
「でも、外で待たなくてもいいよ」
と、アイテムストレージからクラフト台を出して手際良く素材を組み合わせていく。
大きめのリュックを作るとそれを背負いしゃがむ。
「この中に入っていればいいよ、で、大丈夫そうなら出てくればいい」
「よろしいのですか?ワタシ重いですよ?」
「なに、大丈夫だ、そのかわりあんまり動くなよ、いいと言うまでね」
ルッカを背に抱えゴギョウは村に向かう。
村の入り口も石材でできた門になっていた。これはもう、間違いなくゴギョウと同じ「転移者」の仕事である。
石壁に囲まれた村はなだらかな丘陵地帯にある。遠く尾根が続く山脈の麓にあり、所々に川もある。
中でも一際大きな川はどうやら沼地の方へ向かっているようだった。
ここは沼地を抜け、2日ほど進んだ位置にある。叙々に沼地は草原に変わり、整地もやりやすくなった。
あの大きな川を沼地エリアでは見なかったので、どこかで回り込むようにして沼地に水を流し続けているのだろう。
石でできた門の横にはベンチがあり、屋根も設えてある。
そこにはヒゲを生やした中年の男が腰を下ろしていた。
丘の下に人影が見える。おかしい。
人影の歩いてくる方向は危険な毒を持つ生物が大量に生息する沼地のはず。
男は傍にあった長槍を手にとり警戒をする。腰に下げたベルをカラカラと鳴らし以上事態を石壁の向こうにも知らせる。
どんどんと近づいてくるのはどうやら若い男のようだ。
仰々しい肩当てをして、膨らんだ短いマント、腰には何やら武器のようなものもぶら下げている。
「止まれ!」
大声を出して警告する。
歩いていた男は歩を止め、大きく手を振っている。
「何者だ!何をしにここへきた!」
毒沼の方からやってきたのだ。魔族かもしれない。
魔族は暴力的な性格で、さらに狡猾。人類の敵である。
こんな田舎に来ることはないはずだが…。
「ゴギョウと言いますー!旅をしていまーす!」
旅?あのカバン1つで?幾ら何でも軽装すぎないか?
より怪しく見える。
肩当てや腰の剣は黒々として、意匠もどこか毒々しい。
「止まれ!そこを動くな!」
構えた長槍に力が篭る。
「心配ないよ、彼奴は転移者じゃろう、ほお…ふむ……」
村の方から小さな水晶玉のついた杖を持った老婆、この村の占いオババである。
「大丈夫なんですか?オババ。武器も持っているようですが…」
「どちらにしろアレには勝てんじゃろう。沼を変えてきたならそれなりの力もあろうて。それなら敵対するよりまずは話をしてみようじゃあないか」
「そ、そう言われるのでしたら…」
男は向き直り怪しげな男、ゴギョウに向けて大声を出す。
「こっちにきてもいいぞ!話を聞く!」
「ああ、よかった。肩当てとかなんか悪者っぽいもんね。それでもなんか警戒してるなぁ」
リュックからへんじがかえってくる。
「そうですねぇ、ここはのどかな農村でしたがこんな壁もありませんでしたよ?何かあったんでしょうか?」
ルッカとこそこそ話をしながらゴギョウはとうとう、人のいる村へと辿り着いたのだった。
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