第10話 町へ②
ゴギョウは小屋の中にオーム達の体に合わせたテントを用意した。調理台や家具も彼らの体に合わせて作り替え、小さな扉もつけた。
ラミドは相変わらず何も喋らないが、手先は器用なようで作物の世話や収穫を教えた。
たった一晩で収穫して食べることができるということに驚いていた。
この世界もゴギョウのいた世界と同じように、本来ならば作物は何週間何ヶ月もかけて世話をして育て収穫するらしい。魚や獣も解体する時は光の粒子のように消えたりはしないでナイフや包丁を使ってするらしい。
ゴギョウは石のオノや石のピッケルなどをいくつか作り、小屋の外に小さな納屋を建て、しまっておいた。これを使えばラミドたちにもゴギョウと同じように土を崩したり木を簡単に薪に変えたりができる。
小屋の外、庭のところに木材用のスギの木の苗を植えた。これは1週間ほどで成長し、次の苗の元になる種をつける。
さらにねずみたちの仲間のため、庭にあった青い篝火をわかりやすい場所へ移動させる。小屋を二階建てにし、さらにその屋上に土を置いて小さな屋上庭園のようにし、そこに設置。
霧が出ていても拠点周辺を青く照らしいい目印になるだろう。
生活に必要そうなものを一通り作ったが、ラミドが思ったより器用だったのでたりないものがあれば自分たちでなんとかするそうだ。
ゴギョウとルッカの旅支度もする。
痛みがなくなっても手や腕が動かせないことには変わりはない。戦闘もあると考え、それにあった装備が必要だろう。
古竜のバックラーと八ツ首の蛇の素材で作った肩から腕全体を守るガンドレッドを合わせる。ショートソードは握りやすくして片手でもっと使いやすいように重心を変えた。
ルッカにもフード付きのマントを拵えてやった。
クラフトスキルを上げなくてもほぼ困ることなく作ることができる。もしスキルポイントを振ってクラフトスキルを上げたら一体どんなものが作れるのだろう。
ショートソードどころか特大剣やフルプレイトメイルなんかが作れるのだろうか…。
ゴギョウがクラフトアドベンチャーワールドの中と同じ様に物を作ったり、壊したり、チェストボックスから色々な素材を出し入れするのを見たオームたちはとても驚いた。
どうもこの世界では普通のことではないようだ。
自分でも理屈は全くわからないが、転移者の能力のようなものなのだろうか。だとしたら随分チートのようではあるが、これがゴギョウだけのものなのか他の転移者も同じなのかはまだわからない。
1週間後。
拠点小屋を改築し、ここに残るヌート族の今後の生活も心配がなくなった。
ゴギョウとルッカの旅装備も出来上がり、翌朝には出発となった。
目的としては、
・ゴギョウと同じ「転移者」を探し現状の情報を集める。
・ゴギョウとオームの怪我の治療は可能なのかどうか調べる。
そんなことを話しながら夕食を囲む。
この1週間でゴギョウは喋るねずみという以前の世界では考えられない生き物とすっかり打ち解け、慣れた。
この世界にはヌート族のようなほとんど獣のような姿から、漫画やアニメに出てくるような、例えば猫耳があり少し毛深い人のような種族、さらにはエルフやドワーフ、妖精や魔族など様々な種族が存在するらしい。
ここの沼地は人族からすると秘境と呼ばれる部類のようで、人里まではひと月か、そのくらいはかかるとのこと。
ゴギョウは道とまではいかないが、この拠点と往来が少しでもしやすいよう整地をしながら進みたいと思っている。
いざという時簡単に戻って来たいからだ。青い篝火を置いてしまったのでもうこの拠点は移動できない。安全地帯は少しでも活用したいのだ。
それに、整地は楽しい。おおきな湖を埋め立てて平にしたり、山をひとつ丸々更地にしたり、トンネルを掘るのも楽しい。
この世界へ来る前に、伊達にウン十時間プレイしていないのだ。というかほとんどそれしかしていないせいで、スキルや魔法、戦闘やNPCとの交流など、アドベンチャーにあたる部分がほとんどわからないままだが。
翌朝。
「それでは姫さま!行ってまいります!ルッカは必ずよい知らせを持って帰ります!」
「無茶はしないでくださいね、あなたの安全がまず一番ですよ」
「かしこまりました!集落の仲間に出会えたらここを目指すようにも伝えますね!」
「なあ、ガラル、ルッカってもしかして突っ走るタイプなの?」
「ええ、よく空回りもしてますじゃ…、ですがワシらの村では足も速く、簡単な感知魔法も使えますので斥候みたいなこともしておりました。きっとお役に立ちますじゃ」
「さあ!ゴギョウ殿、いきましょう!」
チョロチョロとゴギョウの周りを走るルッカ。
蹴飛ばしてしまいそうで怖いので少し落ち着いてほしい。
「じゃあみんな、行ってくるね。ラミドも畑の世話とか、頼むよ」
「…………」コクリ
相変わらず喋らないな…。
オーム、ガラル、ラミドの3匹に見送られゴギョウとルッカは旅立ったのであった。
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