第9話 町へ



 ずっと違和感があったが、ゴギョウの左腕が動かしにくい。というかほとんど動かない。


 左手の小指と薬指はぎこちないがなんとか動く。手首を曲げることはほとんどできない、膝を曲げることはできなくはないがかなり痛みがある。

 出血して肉が剥き出しになり、かなり酷い傷だったが一晩でこの状態まで治るのはどう考えても良い。


 もう2度と以前のように左腕は使えないだろうと思う。

 元の世界に戻れるのかもわからない。この世界でこれからも今回のような危険にさらされることもあるかもしれない。

 現状や、これからのことを考えるとどうしても落ち込んでしまう。



 小屋の外は雨は上がっていたが相変わらず霧が立ち込めている。

 この安全地帯だけ霧が薄く感じるのは霧の毒性をシャットアウトしてくれているからだろうか。

  

 柵の一部が泥で汚れている。きっとここから中は入ったのだろう。

 すぐ側に毒沼の古竜のショートソードがあった。

 刃の部分にはべっとりと血がついている。蛇のものだろうか。あとで洗おう。

 汚れた部分の柵を崩し、新しく作り替える。出入りがしやすいようゲートにした。


 横たわる八ツ首の蛇の死体に手をかざし、解体、と念じる。毒沼の古竜の時と同じように光の粒子となって消えてアイテムストレージに収納された。

 やはり、これは便利である。まず解体の仕方などわからないし、解体した部位を手に持ったり抱えて運ばなくても済む。

 周囲を警戒しながら古竜のバックラーを探す。

 かなり強く飛ばされてしまったような気がしたが意外と近くに落ちていた。

 昨夜の戦闘でかなり酷使したので随分と表面に傷がある。しかし傷小さく、凹んだり割れたりはしていないようだ。



 素材を回収し、バックラーも回収し終わったので小屋へと戻る。


 そういえばゴギョウ本人には古竜の加護のスキルがあるので毒の耐性はあるだろうがオームたちは大丈夫だろうか。

 回復魔法では毒までは除去できなさそうである。

 



 小屋へ戻るとちょうど食事を終えたところだった。

 

「ガラルって言ったか、回復魔法って毒もけせたりするの?」


「突然ですな」

「いえ、毒までは消せません。しかし、ここの柵を越えると、少しずつですか抜けて行っているような感じがしますな」


「うーん…?もしかして僕のスキルが関係しているのかなあ…」


「どんなスキルなんですか?」


 今度はルッカが聞いててくる。


「毒沼の古竜のすきるだよ。知ってる?」


「毒沼の古竜…!一体どこでそのようなスキルが…??」


を話せば長くなるんだけど…」



 気がついたら別の世界からこの世界へ来ていたこと、たまたま偶然、毒沼の古竜を殺してしまいスキルを手に入れたこと、昨日に至るまでこの小屋で暮らしていたことなどを4匹に話した。



「転移者…噂には聞いたことがありますか初めてお会いしました…」


 オームはとても驚いた表情(?)でこちらを見る。毛色などで誰が誰なのかはなんとなくわかるが表情は…わかりにくい。ねずみだし。


「転移者?他にもいるのか??」


 同じようなやつがいるなら、なぜこんなことになったのかわかるかもしれない。もしかしたらゲームのフレンドなんかも来ているかもしれない。

 そう考えるとなんだか希望が湧いてきた。1人ではないというのはそれだけで嬉しいものなのだ。


「どこにいる?どこに行けば会えるんだ??」


「申し訳ありません…噂に聞いただけですので…。ですが、1人や2人ではないそうです。ヒトの集落や町へ行けば知っている方もいらっしゃるかもしれません…」


 申し訳なさそうにオームが頭を下げる。


 ゴギョウの目的がひとつできた。

 町へ行き、転移者の情報を集め、会う。


 4匹のうちルッカとガラルは人里へ行ったことがあるらしい。

 ガラルは姫様、オームの世話もあるので一緒には行けないというが、ルッカぎ道案内をしてくれるらしい。


 

 オーム、ガラル、ラミドの3匹はこの小屋を拠点に仲間を探し、ルッカはゴギョウと町へ。


 どちらにしろここを空けて遠出をするというのは不安があったのでちょうどいいかもしれない。

 

 ゴギョウの傷は、元通りとはいかないがしばらく回復魔法をかけていれば痛みは少なくなる、とのことだったのでガラルに回復魔法かけてもらいながらしばらく準備をすることになったのだった。

 人里に医者でもいれば傷を見てもらえるもしれないし、上位の回復魔法を使える者がいればオームの足も治せるかもしれない、と、期待も込めるのだった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る