第7話 [毒沼の八ツ首]決着




「ハァ、ハァ、やった……!」


 動かなくなった蛇をみて改めて大きく深呼吸をする。

 その場にへたり込んだまま呼吸を整える。よくもまあ、こんならでかい化け物と戦えたものである

 落ち着くと嫌な汗が背中にどっと出る。こんなヤツが沢山いるならもう少しスキルアップもしておこうか、と考えてしまう。


 そういえばあのねずみたちは?

 雨の降る夜、少し離れるだけで視界は悪くなる。日はすっかり暮れてしまっていた。

 篝火でぼんやり照らされた拠点の方を見ると安全地帯のそばでモゾモゾと動く影が見える。

 どうやらたどり着いたらしい。が、そう言えば安全地帯にそれを建てた本人以外は、手順を踏まなければ入らないのであった。


「怪我をしていたよな…俺も疲れたし休みたい…」


 ひとまず拠点の小屋にまで入れてやり、自分も休むことにしよう。

 ゴギョウはのそのそと立ち上がり、ゆっくりと歩き出した。

 ねずみたちは怪我をしていたこともあり時間のかかる距離だったが人の足なら数分の距離である。


 すぐ拠点がはっきりと見えるほどの距離になり大きな声で声をかける。


「おーい!大丈夫かー?」


 左手を上げ大きく振る。


「おまえら、なんだ、しゃべれたよなー?!」


 振り返ったねずみたちは驚いた顔でこっちを見る。きっとあの巨大な蛇を倒したゴギョウを見て驚いているのだ。ふふん。誉めよ讃えよ。

 何やら騒ぎ始めた。安全地帯まであと15メートルほどである。


「おい!うしろ!」

「うしろだー!」


 ?? うしろ?


 ザアアッ!


 嫌な気配を感じた。ゴギョウは勢いよく振り返ると先ほどとはひとまわり小さな蛇の首がこちらを睨み力を溜めている。


「なっ!なんで?!」


 さきほどの蛇の…尾だ!

 ずっと水に浸かっていた胴体、その先の尻尾の先に蛇の頭があったのだ!それが8本目のくびだったのだ!


 盾を構えようとするが、拾い忘れた!

 もう倒したと思い安心して油断して古竜のバックラーを拾っていなかった。はじき飛ばされて腕から外れたままであった。

 ゴギョウは両手を前に出し咄嗟に緑色の壁を出す。


 ガガガッ! 

 なんとか直撃は免れたが壁を出すタイミングが遅かったため体ごと吹き飛ばされる。


「いっっっ!うおおおっ!」


 一瞬、体が宙を舞いそのまま拠点の柵に打ち付けられる。

 バチンッと大きな音を立てて背中に激しい痛みが走る。


 呼吸を失いゴギョウは苦しそうに咳をながら倒れる。


「ゴホッゴホッ!」


 次が来る!再び力を溜めるような仕草を始めた尾の蛇。


「ヒール!」


 吹き飛ばされた先、すぐ横にいた1匹のねずみがそう叫ぶとゴギョウの体は淡い光に包まれた。


 ! 背中の痛みが和らいだ!これなら!


「うおおおおおっ!」


 ショートソードを握る手に力を入れて立ち上がり蛇の攻撃を迎え撃とうとする。

 しかし一瞬遅くゴギョウの左腕に蛇の突進がかすめるように当たってしまう。

 蛇の頭にはツナのような突起があって、ゴギョウの左手から肘にかけて大きな、えぐれたような傷をつける。

 かすめただけなのに、腕からはだばだばと血が流れ、これまで経験したことのない痛み、熱が腕に走る。


「ちっ、くしょ…う!」


 それでもゴギョウは渾身の力を込めてショートソードを振り下ろす。

 安全地帯の境界に激しく頭をぶつけた蛇目掛けてショートソードを突き立てる。


 グギャアアアアアア!!!


 断末魔というのだろうか、大きな叫びと共に

視界の隅で[毒沼の八ツ首]の下にあるHPゲージが消滅した。

 今度こそ、完全に倒した。


 しかし腕からは血が流れ、ゴギョウはそのまま倒れ込む。


 どたどたとねずみたちが駆け寄ってくるのがわかる。何か叫んでいるが自分の鼓動の音がが大きく周りの音が聞こえない。


「はやく……小屋に…」


 そう言って柵に手をかけたところでゴギョウの意識は途切れた。


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