第6話 毒沼の攻防
「かかってこい!」
そうカッコつけたところで、叩きつけられる首をギリギリで躱すと 「ひいっ!」 と情けない悲鳴をもらす。
ゴギョウは異世界の戦いに向かって行ったものの、基本どこにでもいそうなアラサーである。
ブラック居酒屋で鍛えたフライパンや包丁捌きには自信があるが、こんな巨大な異形の蛇と戦うことなどできるはずがなかった。
それでもまだ怪我も負わずこうして立っているのはスキルのおかげであろう。
ゴギョウはゲームの主人公になったつもりで、自分を騙し騙し、冷静になれ、敵の動きを観察しろ、と自分に喝を入れる。
こちらの手札はまずこのショートソード。一撃必殺、ではないがダメージは与えることができる。
古竜のバックラーは40センチほどの円形で、小さいながらのなかなか頑丈で取り回しも良い。中央が膨らんでおりその部分で攻撃を受けると力を分散させ、いなしやすくなる。鈍器としても使える。
そして毒沼の古竜の鱗のスキルと思われる緑色の傘状の壁。これは意識を向けるだけで腕を伸ばしたくらいの範囲に出現し、盾として使える。当たると毒々しい煙のようなエフェクトが見えるので、おそらくカウンターで毒を相手に付与できると思われる。
この蛇には毒は効果がないようだが。
対して「毒沼の八ツ首」、この蛇の攻撃はパターンがあるように思う。ぐっ、と力を溜めるような仕草の後、複数の首が一斉に叩きつけられる。
力を溜めるような仕草でも、叩きつけではない湖の水をまるで水鉄砲のように飛ばしてくる時もある。こちらは頻度は少ないのでなるべく早く蛇の近くの方で戦った方が良さそうである。
巻きついてこようともするが、こちらのスキルの盾のおかげで巻き付きにくいらしくほとんどしてこない。
叩きつけをかわしてバックラーで殴る、ショートソードで斬りつける、を繰り返す。
夕暮れもすぎ、あたりは薄暗くなってきたが拠点が近いのであたりはぼんやりと青く照らされる。
雨で足元は良くないが、このブーツは雨でこそ真価を発揮するようだ。滑らせて転倒、ということはない。
ひとつ、またひとつ、と蛇の首は動かなくなりあと2本となった。
「よしっ、いける!」
自信がどんどん湧いてくる。もしかして自分はこの世界ではかなり強いのでは?そう考えてしまうのも無理はない。
これがゲームならちょっとしたボス戦である。
蛇のHPゲージもあとわずかだ。
叩きつけ攻撃も首が減ってきたことで難易度が下がっている。
バシャーン!と大きな音を立てて3本の首が叩きつけられる。
横に飛びショートソードで斬りつける。グシャッと気持ちの悪い手応えがする。
正面の首の片目を潰した。
「うひっ!きもちわるいっ!」
グギャアアアア!とのたうちまわる正面の首。すごく痛そう。頼む!逃げてくれ!とゴギョウは蛇が退散してくれるのを祈る。正直この世界に来る前も、来てからも運動らしい運動はしていないため、完全に息が切れている。スタミナが無さすぎるのだ。
さっきまでいけると思っていた?
…思っただけだった。
すでにボロボロの毒沼の八ツ首は怒り狂い、やる気がまだたっぷりとありそうだ。
ゴギョウはチラリと拠点の方に目をやる。ねずみたちはまだ怪我をした1匹を抱えのそのそと移動していた。あと少しで安全地帯にたどり着きそうだ。
バシャバシャと水しぶきを上げ左右から蛇の頭がこちらを狙っている。
次、強い攻撃が来る。これまで以上に力を溜めいるようだった。
ゴギョウは一歩下がる。そこに正面の首から水弾が飛ばされる。
「くっ!このっ!」
ショートソードを振りかぶりスキルで作った緑色の壁でガードする。
ガアァッ!雄叫びを上げながら左右から薙ぎ払うように叩きつけ攻撃が迫ってくる。
すぐさま身をかがめ緑色の壁を頭上で傘のようにする。
ガガガッ!!
勢いがついたせいで蛇どもの鼻頭に緑色の壁がめり込み動かなくなった。
ラッキーだった。ラッキーだがこれで残りの首は片目を潰した正面のものだけである。HPゲージもほとんど残っていない。ここまできたら逃げるより倒してしまった方がいいのはわかる。
しかしゴギョウのスタミナも限界だ。
「かかってこいやあっ!」
最後の力を振り絞り手負いの蛇を煽る。
蛇は最期の1本の首に力を込める。叩きつけが来る!
グギャアアアアアアアア!!!
大きく口を開けて真っ直ぐにこちらに蛇の牙が迫る。
叩きつけではなく突進攻撃だったため咄嗟に正面に出した緑色の壁にこれまでにない強い衝撃を受ける。
ゴギョウの左手側になんとか突進を逸らした。しかし内側からえぐられるように古竜の盾がはじき飛ばされてしまった。
蛇の首はゴギョウのすぐ横で地面に当たり止まる。すぐさまショートソード振り上げ
「だああっ!!!」
ザンッ!!!
人の胴ほどある蛇の首が断たれる。赤い血が勢いよく吹き出て、[毒沼の八ツ首]討伐完了である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます