第5話 夕暮れの雨、急襲
4日目終了。
そのまま5、6、7、8、9日も終了。
釣りしかしてない。てか外に出たくない。せめて地図とか欲しい。ないと無理。
パンおいしい。もぐもぐ。
そんなこんなで10日目も釣りをして過ごした。今日までに小屋の中に暖炉や食器棚、テーブルや椅子なんかを作ってそれなりに人間らしい空間にはなった。
チェストボックスにあった獣油をクラフトで加工して燃料も作ったのでカンテラを室内に設置した。
外は雨でも消えない青い篝火で照らされている。
この10日、小雨がよく降り豪雨と呼べるほどの雨も降る日があったりもした。
この日は夕方からしとしとと降り始め、わずかに釣れた淡水魚をバケツに入れて小屋へ戻るとしよう。
2〜3日前からやっと小魚が連れ始めた。たまにグロデスクな魚やカエル、デカいタガメのような昆虫も釣れる。キモいやつは即リリースした。
2〜30センチの、鯉のような魚は鱗を取り、内臓を掃除してしっかりと火を通せばとてもおいしい。塩だけでいける。
この魚でここでの献立に潤いが出た。
畑では主食のパンの小麦を育て、芋の他にトマト、マットフルーツ、胡椒の花、香草、紅茶などを少し植えた。流石に1日で収穫できるものばかりではないが、ここに来て1週間もした頃にはそれなりの食料が収穫できるようになった。
水辺から糸を引き上げ、立ち上がってふと湖の方へ目をやると何かが見える。
どうもこちらへ向かってくる小舟のようであるが…。
小舟は何かに追われているように見える。ねずみのような…。
そして小舟を追う水しぶき。蛇。複数の蛇が水を切りながら追ってきていた。
湖から岸にたどり着くとどたどたとねずみのような者が駆けてくる。
茶と黒の体毛に口まわりに髭がわさわさと生えている。体型はずんぐりとしておりカピバラのような生き物だった。
「たっ、たすけてくれー!」
4匹いるカピバラのような生き物のうち1匹が走りながら叫んだ。
この世界に来て10日、初めてコミニュケーションの取れそうな生物である。
複数の蛇は恐ろしいが、安全地帯のすぐそばでなら戦えるかもしれない。毒沼の古竜のショートソードと古竜の盾を素早く装備しゴギョウは駆け出した。
柵を飛び越え水際を走る。
「こっちだ!青い火を目指せ!」
叫んで盾を構える。ゴギョウの脇をどたどたと2匹が駆け抜けようとしたが1匹は怪我でもしているのだろうか。もう1匹に抱えられあまり走れそうにない。
湖から3メートル以上はあろうかという首を鞭のようにしならせ蛇が襲いかかってくる。2匹のカピバラのような者を庇うようにゴギョウは蛇に立ちはだかる。
このスピードのねずみたちに追いつかなかったように見えたのはおそらくこの蛇がいたぶって遊ぶつもりだったのかもしれない。
叩きつけられるように襲いくる蛇の一撃が当たろうかというその瞬間、盾を構えたゴギョウの前に緑色の半透明な壁が現れた。
ガキイッ、と大きな音を立てて防ぐことができた。
緑色の壁は1メートルほどの円形で、傘を広げたような形だった。
もしかしたらこれが毒沼の古竜の鱗スキルの効果かもしれない。が、深く考える暇はない。
目の前にある蛇の頭を横から盾で殴るように叩き、怯んだところを斬りつけた。
バチンッと切る、というよりは棒で殴ったような音が響く。切断はできなかったが蛇は脳震盪でも起こしたように目を回している。
湖の方に視線をやり、ほかの蛇を警戒しようとする。
するとほかの蛇どもの上に文字が浮かび上がってきた。
【毒沼の八ツ首】
コイツの名前か?文字のすぐ下に赤色のHPゲージのようなものも見える。ほとんどCAWOのゲーム表示である。
が、この場合は助かる。蛇は湖から生えるように鎌首をもたげ、ゆらゆらと揺れている。
グッと力を溜めるような動きをして、残りの蛇が襲いかかってくる。
背後にいた2匹のカピバラ?たちはほかの2匹にも助けられて安全地帯の方へ向かって行っているようだ。
「すまん!」「助かる!」などと小さく叫んでいるのが聞こえた。
バキッと音とともに大きく口を開けた蛇どもをなんとかしのぐ。今度は先ほどの緑の壁と古竜の盾、バックラーで三方からの蛇の攻撃を躱すことができた。
ショートソードを振り回しながらカピバラたちとは反対の方向に一歩、二歩と下がり距離を取る。
毒沼の八ツ首とやらは黒々とてかりのある胴体に、群青色の一本線が入り、腹は灰色。太い胴体から複数の首に分かれた、ゲームなんかでよく見るヒドラのような見た目であった。尾の先は暗い湖の中に浸かっていて見えないが、10メートル近く長さはありそうだ。
少しでも注意を引き、カピバラたちが完全に安全地帯に逃れるまでの間なんとかこちらに押さえておきたい。
バックラーとショートソードを勇ましく構えゴギョウは毒沼の八ツ首を睨みつける。
「さあ!かかってこーい!!!」
脂汗をかきながら似合わない、ダサい決めゼリフだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます