第2話 毒沼の古竜



 目を覚ますと服はまだ冷たく湿っていたが凍えるほどではない。いくら柔らかいとはいえ地面に直接寝転んだせいか体が痛い。

 外に目をやると、晴れてはいないが雨は降っていないようだ。どんよりとした曇り空がみえる。おそらく、たぶん、夜明けごろだろう。薄暗いがやっと空が白んできた頃か。


「夢じゃなかった……、嘘でしょ…」

 ボソリと呟いて体を起こして座った状態で、壁に肩を預けて途方に暮れる。


 

 どのくらい放心していただろうか。しばらくの間ぼんやりとしてなにも考えられないでいると、


 シュウッ!ゴウッ!と空気を集め、勢いよく噴射したような音が…頭の中に聞こえる…。

 シュウッ!ゴウッ!

 シュウッ!ゴウッ!

 シュウッ!ゴウッ!

 ・

 ・

 ・ 

 ・

 ・

 けたたましい音は五行幸成を再び混乱させるには十分であった。「ひっ…!」「うわっ…!」などと情けない小さな悲鳴を上げながら辺りを見渡しあわあわとする。

 しばらくその音は鳴り続け、やがて静寂が訪れる。

 「もう……なんなのよこれ…えぇ……」

 半泣きになりながら完全にビビってしまった。

 が、しかし、聞き覚えのある音ではあった。

 クラフトアドベンチャーワールドオンラインの、アイテムなどを手に入れた時の音に似ていた。

 今のは効果音か?今いる土でできた部屋と同じく、ゲームがリアルになっているのかもしれない。

 ステータス、と意識を集中させると昨晩と同じようにウインドウが開く。

 薄い緑色のウインドウには


 [ゴギョウ]

レベル 58

 筋力1→12

 体力1→15

 技量1→14

 魔力1→10

 運1→12

スキルポイント 214


 クラフトアドベンチャーワールドオンラインと同じようにみえる。スキルポイント多いな…!

 HPとMPのバー表示もある。スキルツリーもあるがポイントを振っていないので初期状態のままである。

 所持品はゲーム内とリンクしているがレベルやステータスは初期レベル。

 アイテムがあるのはかなり助かる。

 まだ現実を受け入れ切ったわけではないが、切り替えは大切である。帰ることができるのか、ここで生きていかなくてはならないのか。

 わからないのでとりあえず、今日を生きることを考えよう。


 と、いうか、なぜレベルが上がったのか?

 何もしていない。全く何もしていない。呼吸しかしていない。

 モンスターを倒さないと経験値は得られないはずだが…。

 ひとまず外へ出て拠点を住みやすくしたい。

 青い篝火を消費してしまったのでこの場所を拠点とするしかない。避難場所とした土小屋を天井から崩す。

 崩すと木材や石材、土などの素材が再びアイテムストレージに収納される。

 囲炉裏を残して全てを収納した。

 辺りは大小様々な大きさの水たまりがある。エリアの種類としては沼地だろうか。


 …………


 ん?


 何コレ?


 ……………


 篝火を置いたすぐ横にあった大きな岩、のようなもの。

 巨大な亀のようなものが横たわっていた。

 それは黒々とした大きな甲羅で、ゆうに10メートルほどの高さがある。だらりと伸びた首が篝火のすぐそばに落ちており、光を失った瞳とクチバシのように尖った口からは牙がのぞいている。


 おそらく、おそらくだが、①青い篝火で安全地帯を作る。②安全地帯のエリアにたまたまこの大きな亀の頭があった。③亀が身動きを取れなくなる。④一晩かけてじっくりと安全地帯の干渉を受けダメージを受ける。⑤亀さん死んじゃう。

 そしてその安全地帯の主が倒したという判定になり経験値をゲット。


 「そんなことあります?」

 運営さんこれバグじゃないっすか?あり得ないでしょ。亀さんかわいそう…。


「こいつ解体とかできるのかな…」

 落ちていた木の棒でつついてみる。と、巨大な亀?はサラサラと光る粒子のようになって消えていった。

 アイテムストレージには『毒沼の古竜の鱗』『毒沼の古竜の皮』『毒沼の古竜の牙』等々が追加された。持ちきれない素材が目の前に大量に転がっている。

 ゲームでは持ちきれなくて転がっている素材アイテムは時間経過で消滅していたはずだ。

 直ぐに手持ちの木材を使用して青い篝火の横にクラフトテーブルを作って設置する。うん、ゲームと同じだ。アイテムストレージウインドウを開き、指で素材を選択、スライドさせるとクラフトウインドウで作ることができる。

 続けてクラフトテーブルの上に木材をスライドさせ、アイテムを大量に収納することのできるスタッシュボックスを作成する。木の宝箱のような四角い箱をテーブルのすぐそばに設置。

 (あのでっかい亀、毒沼の古竜って名前なのか…)と考えながら転がっていた素材たちを、どんどん放り込む。

 するとこれは僥倖。ゲーム内のスタッシュボックスに入れていた様々な素材やアイテム、食べ物なんかもあるではないか。

 ちなみにこのスタッシュボックスは作成者専用となり、本人だけが使用可能なボックスとなる。

 上位素材や貴重なものは木製ではなく鋼鉄製のスタッシュボックスに収納したはずである。この世界がクラフトアドベンチャーワールドと同じなら、鋼鉄製のボックスを作る素材も存在するはずである。

 それならばまずはここをメイン拠点として散策をしよう。

 NPCなども存在するかもしれない。いずれは村や町なども見つけたいところである。




 それからの行動は早かった。あたりを篝火を置いた、少し小高くなった地面と同じ高さに手持ちとボックス内の土などを使い平らに均していく。10メートル四方に広げ木の柵で囲む。この作業によって安全地帯は柵で囲まれた範囲全てとなる。

 石材で小屋の土台を建て、木材を使って枠組みを建てていく。昨夜と同じように木材や石材はブロック状に表示され、半透明なものをスライドさせていくだけで組み上げることができる。なんだか魔法使いになった気分だ。



 夜明けからしばらくの後にはじめた建築作業は夕方には終わり、石材と木材を組み合わせたログハウスのような小屋が完成した。

 今回はきちんとした窓やドアもある。小屋のそばに穴を掘り、水源ブロックを設置。飲めるかどうかは今後検証するとして風呂には使えるだろう。

 確かゲームでは浄水器もクラフトできたはずである。

 小屋の中にひとまずベッド、竈門を設置。日が暮れてからは明かりとしてカンテラを作りたかったがまだ燃料が無いため竈門の灯だけで我慢しよう。

 昨夜とは違いかなり快適になった。粗末な服をもうひとセット作り着替えた。ベッドに潜り込む。あたたかい。目を閉じる。




 こうして異世界転移2日目が終了した。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る