第3話後輩ちゃんは可愛いでしょ。

「唯ちゃん!唯ちゃん!」

「あっ…」

「どうしたのぼっーとして、もしかして体調悪い…?部活いける?」

「大丈夫。行こうか」

この子の下の名前は何だっけ。海馬が反応してくれないどれだけ必死に思い出した所で、名字で呼んでいるのだから意味は無いか。

私は思い出すことも考えることも止めた。


皆さんは部活が好きですか。それとも好きでしたか。私はどちらでもない、普通です。

授業が終わるのが3時15分だから大体二時間半ぐらい練習をして、家に帰る。それだけの行為に体がダルくて疲れ方が尋常ではない。

「こんにちは!」

後輩のが元気よく挨拶してくれる。さぁ笑え、私よ。

「こんにちは。愛生あいせちゃん。今日も頑張ろうね」

部活内では後輩のことをちゃん付けをするというのが暗黙の決まりらしく私も自然に後輩は下の名前で呼んでいた。

愛生ちゃんは同じパートの後輩でどうして吹部に入ったの?と聴いたら、入学式で吹いていた唯先輩のソロがカッコ良かったからです。と言われた。だから、私にはこの子を可愛がる責任がある。

一瞬このグズから涙が溢れだしそうになった、別に私は部活命!ではない。ある程度の技法は1年の間に習得したが本気でやったわけではない。習得した理由は先輩が嫌いだから。それだけだ。今はもう先輩の姿は一ミリもなくいつの間にか私達の学年が仕切る立場にいた。

嫌いな理由。私は人を理由もなくイジメたり、無視したりするわけではない。理由は…

今は話すべきではないと思う。また穴におちてしまうから。


片付けて下さい。

はい!

「ゆ・い・せ・ん・輩♪一緒に帰りましょうね。」

後輩が話しかけて来た。中1ながらも小4ぐらいの体格、私とは大違い。身長なんて小6から伸びてない、私はもう子供でもなくて大人でもない半端ものでグズ。

「私、2年生の人と帰りたいんだけど…皆で帰るのはどうかな?」

私は2年生が固まっている方へ向かう。

「あのさ愛生ちゃんがなんか一緒に帰ろうって行ってくるんだけど、皆で帰れないかな…?」

「愛生ちゃんは唯ちゃんのこと誘ってるんだから2人の方がいいんじゃない。ねぇ皆。」

「いいと思う!」

誰かは多かれ少なかれ「一緒でもいい」と行ってくれると思ったが仕方ない。私は微笑みながら。

「分かった。バイバイ」

数人からバイバイ。とかまたね。こ声が聴こえる。私は皆が階段下りるまでぐらい手を肩の下ら辺で振り続けた。1年の時は皆で帰ったのにな。

「帰ろうか愛生ちゃん。」

校門を出ると始まった。彼女の束縛が。

「なんで、先輩方と帰ろうとしたんですか?

今日部活来るの3分遅かったですよね?

どうして何も話さないんですか?私のこと嫌いですか?」

だから嫌なんだ、愛生ちゃんと帰るのは。私といるときだけ目の瞳孔が死んでいる。しかも光の加減で黒目全体が赤く光っている。でも若干お風呂場から見つめたあの星によく似ている。だから綺麗に見えて引き込まれそうになる、見つめられない。

でも彼女と居ても穴に落ちたことはない。



皆が帰った方が良いって言ったから。

私はこの子と帰るだけだ。

「愛生ちゃんの名前ってさ可愛いよね。」

「なんの話ですかぁ?私の質問に答えて下さい。」

「いや、だからね可愛いなって。手も足も細くて、女の子っぽくて私とは大違い。愛生っていう名前も人のことを愛す為に生まれて来た、みたいな感じがして羨ましいなって」

あなたの瞳が赤ければ私の目は蒼く光る。

私と目を会わせれば楽になるよ。


愛生ちゃん。

「ねっ、そうだよね。私の言うこと聴いてくれるよね。」

私はこう続けた。

「私ね、怖いの。孤独が物凄く。なんだろう例えるならば黒い部屋の中に1人で閉じ込められてる感じ。不安で不安で仕方ないの。貴方と一緒に帰ったら少しは紛れるかなって思ったけど、違った。暗闇はさらに私を暗闇に引きずり込んだだけ。だから貴方といる理由はもうないの。だから失せろ。」

声の強弱もなく私は続けた。私の目を見つめながら彼女は何かに吸い込まれているような表情を浮かべ。私の前から無言でうつむきながら家の方向へと向かっていった。

「サヨウナラ。」

穴におちて行く。仕方がない。これは私が悪い我慢すれば良かった。脳裏に浮かんでくるその感情は苦しくてこの世にも無いほど苦い。

私の蒼い目は元に戻った。

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