第2話・海斗・気付き


 たしかに彼女は、魅力的な人ではあった。

でも、僕は。

その魅力に惹かれるわけにはいかなかった。


 知り合いのつてで、仕事を紹介され、僕は代理人の仕事をこなすだけだった。

そのクライアントが・・・彼女だった。


 彼女は、身近なひとが亡くなったとは思えないくらい、普通に、穏やかに話す人だった。

初めてあった時の服装は、僕は今でも覚えている。

僕の事務所に来た日。

きっちりとしたスーツのジャケットに、ふんわりとしたスカートを合わせていた。アクセサリーは左手薬指の結婚指輪であったが、その三点だけで彼女はとても美しく見えた。実年齢は24歳と聞いていたが、容姿は相応だったが、その落ち着いたしぐさはもっと上の年齢に見えた。


 説明を聞いたり、書類を書いたりしている仕草は、ドラマを見ているかのようように僕の目には映った。


 二回目にあった時は、一度だけ、仕事以外の会話を交わした。どういう仕事をしていたか、という話だった。深い意味はなく、営業トークみたいなものだ。

 そして次にあった時は、深い意味はなく聞いてしまった。話し合いが終わり、書類を受け取り、これが最後で、会えない日だった。

「どういう人がすきなのか。」と。。そしたら、彼女は間髪いれずに答えたのだった。

「あなたよ。」

そういって、別れ際彼女は言ったのだ。

事務所の外まで出て、彼女を送り出したあとだった。彼女はすぐに踏切を渡ってしまい、電車が通過するとすでに姿が見えなくなっていた。


 そんな事を言われたら。

もう一度。

会いたいと思ってしまうのではないか。


 気が付くと、僕は追いかけて。


君を誘っていた。


『●時に、××カフェで。』


そんなフレーズが大きく載ったこの広告は朝一で業者が持ってきたもので、事務所のラックに束にして立てかけていたやつだった。


そのカフェは、某都内のなかシティホテルの中にあった。チェーン店ではなく、そのホテルにしかないカフェ。・・・・そのホテルにステイした人でないと入れないカフェだ。


「夜・・・待ってます。ここで。」

君を追いかけ、僕は口走っていた。彼女の細い手をとり、それを握らせた。

その手はとても細かった。自分でも強引だと思ったが、もう、戻れなかった。


 君はどんな顔でチラシを受け止めたのか、下を向いていて分からなかった。しかし、君は大切そうにチラシを折り畳んでくれてしまってくれた。会釈して、僕に背を向け、そして談話スペースから去っていった。

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