第6章 第1話

鹿島から、年間活動計画書を生徒会本部に提出したと、聞いた後のことだった。


放課後の廊下で、俺はようやく奥川を捕まえる。


廊下を並んで一緒に歩くのも、久しぶりだ。


「マジで本部が受け取ったの?」


「そうだよ」


「受理された?」


「されたよ」


鹿島の提出した計画書だ。


いくら彼女が部のため俺のため、生徒会で頑張ってくれているといっても、コレばかりは阻止しておきたい。


「いいじゃない。1年の子たちが頑張ってるんだから、認めてやりなよ」


「アレさ、書いたの、実は俺じゃないんだ。それっていいの?」


「部長印押してあったじゃない。許可したってことでしょ」


「そんなの、本部の会議で通るわけ? 無理っしょ、そんな無理して頑張ってくれなくても、いいよ」


「大丈夫、他も部も必ずしも部長が自分で書いてるって、わけじゃないから」


奥川は相変わらずの早足だった。


これはある意味、コイツの昔からのクセみたいなもんだ。


何をそんなに急いでいるのだろうかと、いつも思う。


「鹿島くん、すごくいい子だよね、びっくりしちゃった。あんないい子、逃がしたらもったいないよ。きっと役にたつよ、電子制御部の救世主だよ」


そんな風に奥川から言われると、ますます余計にムカツク。


「そうかぁ~? 口だけで実力がって感じだけどな」


ふいに奥川が振り返る。


目があった。


突然、彼女は笑い転げる。


「何がおかしいんだよ!」


「ううん、別に」


涙目になって笑うその格好は、彼氏に見せるような姿じゃないだろ。


まぁ、別にいいんだけど。


「私も部活入ろっかな、電子制御部」


「え、マジで?」


「吉永が部長になったし。生徒会優先で時々しか顔出せなくっても、文句言う人はいないよね」


「いない、いないよ。つーか、俺が言わせないし」


やった。


うれしい。


「入部届け、出す?」


「う~ん、また後でね。考えとく」


彼女は相変わらずの早足のまま、天井を見上げるとそう言った。


「ま、多分出すとは思うけど」


廊下の向こうに、鹿島の姿が見えた。


うちに入部を希望している、取り巻き連中に囲まれている。


「鹿島く~ん!」


奥川はそこへ向かって、手を振った。


それに鹿島は、ぺこりと頭を下げて応える。


なんだよ、なれなれしい奴だ。


「今から理科室に行くの?」


「あ、いえ、一度行ったんですけど、鍵が開いてなかったので、職員室にとりに行こうかと」


鹿島の目が、おずおずと俺を見下ろした。


部室である理科室の鍵は、部長である俺が持っている。


「すみません。お二人で、何かお話があったんですよね。先に理科室の前で待っています」


奥川の肘が、俺の腕をつつく。


「あぁ、悪いけど、先に行っててくれる?」


ズボンのポケットから取りだそうとしたそれは、ほつれた糸に絡まってひっかかった。


なんとか引っ張りだそうとしても、上体を半分ひねったような態勢からだと、非常に扱いにくい。

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