第3話

「画像に撮って、本部に送る?」


「紙じゃなきゃダメだって、お前がいま言ったばっかりだろ」


「あ、じゃあ、画像に撮って、パソコンに保存しておきますか?」


鹿島はポケットからUSBを取りだした。


また余計なことをする。


そのUSBは私物か? 


ブルーの真新しい立派なそれを、古い古いパソコンに差し込む。


「それ、つながんの?」


「こないだ、パソコンの容量を落としてアップグレードさせておいたので、使えるようになってます」


「容量落としたら、ますます使えねぇだろ」


そう言った俺を、鹿島は見上げた。


「あ、余分なファイルを削除して、クリーンアップとデフラグをかけたっていう意味です」


なぜか申し訳なさそうな顔をして、目をそらす。


俺だってそんくらいのことは、分かってるよ!


「あぁ、そういうことか。うん、最近パソコンのメンテやってなかったから、助かったよ」


一応お世辞でもそう言っておいてやったのに、鹿島はぎゅっと唇を横に結んだまま小さく頭を下げただけだった。


奴の大きな手の平から伸びる長い指が、カタカタとよどみなくキーボードを叩く。


「なにこれ、私物のUSB? だったら、部で使うのはマズくね?」


「あの、部長。印鑑をください」


そこにいた全員の視線が、俺に集まった。


山崎までじっとこっちを見ている。


なんだよこの流れ。


部長印はタダじゃねーぞ。


「あれ? どこに置いてあったっけ」


背中に集まる視線が痛い。


本当は覚えているけど、忘れたフリをしてもぞもぞと探し回る。


俺は部活用に割り当てられた引き出しから部長印を取り出すと、渋々とそこに承認の印を押した。


鹿島はそれを携帯で画像に収めると、またパソコンを操作する。


「なぁ、そのUSBって……」


「ニューロボコン用に新しいのを自分で買ったので、大丈夫ですよ」


だから、そうじゃないんだって。


「お、偉いねー。鹿島はやる気だね」


山崎がそう言うと、1年どもは笑った。


「活動計画書と、予算追加の申請を保存しておきました」


「ごくろうさま」


鹿島の肩に手をおいたのは、俺ではなく山崎の方だった。


山崎は鹿島と目を合わせて、にっと微笑む。


「後はこっちに任せて、制作の具体的な準備を始めとけよ」


「はい! お願いします」


鹿島たちの、キラキラとした笑顔がまぶしい。


山崎は満足した様子で、俺のところへ戻ってきた。


「後輩って、結構かわいいもんだな」


俺は勢いよく鼻を鳴らす。


「後は任せろって、なにをするつもりなんだよ」


「えぇ?」


山崎は笑って、俺を振り返る。


「そんなの、頑張れよっていう意味に決まってんだろ」


「何を頑張るつもりなんだよ」


俺は染みのついた天井を見上げた。


俺にはコイツが何を言っているのかも、何を考えているのかも、さっぱり分からなかった。

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