第2話

俺は書類のチェックをしているフリをして、紙に目を落とした。


細かい文字で何かがびっしりと書かれているが、内容は何一つ頭に入ってこないし、興味もない。


どうせやったって無駄なことに、何を頑張る必要がある。


これは鹿島だけの問題じゃない。


それに巻き込まれる俺にとっても、ニューロボコンへの参加は、無駄な努力に無駄な時間に無駄な労力だ。


どうやってやめさせようか。


そればかりを考えているうちに、廊下を歩いてくる話し声が聞こえ、1年と一緒に山崎が入ってきた。


「山崎、お前、これどう思う?」


副部長兼、総務兼、書記であり会計も任せてある、雑用係の俺の右腕、山崎に全てを託す。


助かった。


これでこいつがダメと言えば、もうお終いだ。


それに便乗して、却下できる。


コイツらの挑戦も、ここでおしまい。


落胆したコイツらは入部を諦め、ここを去る。


山崎は難しい顔をして、じっと書類をチェックするフリをしていた。


「うん、いいんじゃないかな。とりあえずこれで出してみたら」


鹿島たちの顔がパッと明るくなった。


その紙をそのまま鹿島に手渡す。


「ありがとうございます!」


「おい、本気かよ」


詰めよる俺に、山崎はにっこりと笑った。


「まぁ、実際のところはやってみないと分かんないわけだし。とりあえずそれっぽいことを書いて、予算と許可をもらえればいいんだろ?」


コイツの楽観主義はいつものことだが、今回ばかりは完全に理解出来ない。


頭がおかしい。


こんなのを本当に通してしまって、大丈夫なんだろうか。


「提出期限もあるし、これで突き返されたら、もう一度案を練って食い下がろう」


そのワケの分からない紙を鹿島は手にしたまま、俺を見下ろしている。


こんなの、どうしろっつーんだ。


「何やってんだよ、ほら、受け取れよ」


山崎にそう言われて、渋々と受け取る。


紙面の右隅にある、部長印の欄が痛い。


鹿島はほっと息を吐く。


「つーかさ、こんなもん、今どき紙なんてありえねーよな。ネットのクラウドでやれよ、資源の無駄遣いだよな、時代遅れじゃね?」


「そんなこと、いま言ったってしょうがねぇだろ」


「俺たち、電子制御部なのに?」


呆れたような山崎は、部のパソコンを開いた。


「だったら、お前がテンプレ作ってやれば? 生徒会と学校の問題だろ」


俺の本当に言いたいことは、そんなことじゃないのに、どうして山崎にはそれが伝わらないんだろう。


山崎なのに、どうした?

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