第4章 第1話

その日、俺は朝の通学路で庭木と鉢合わせた。


「なんだよ」


「別に」


こいつとは、高校に入ってから知り合った。


山崎とも庭木とも、去年は同じクラスだった。


俺としては別段気にかかる存在ではなかったはずなのに、どういうきっかけでしゃべるようになったのかが分からない。


奴は俺の後ろをついてくる。


「最近はどう? 元気にしてんの?」


特に友達だと意識したことはないし、そんなことを聞かれるほどの仲でもない。


「普通に元気だけど」


俺は庭木の存在を無視して歩く。


「そっか。クラス変わってから、最近しゃべってなかったからな」


だから、俺はお前と話そうと思ったこともなければ、話したい内容もない。


庭木は俺の隣に勝手に並んで歩いている。


「川島っていただろ? あいつな、いま俺と同じクラスなんだけど……」


俺にとってどうでもいい庭木が、さらにどうでもいいクラスメートの近況報告をしてくる。


それがなんだっていうんだろうか。


ふと顔をあげたら、前方に奥川の後ろ姿があった。


女の子と二人、並んで歩いている。


「奥川さんのことが気になる?」


突然、庭木はそう言った。


庭木は奥川のことを『奥川さん』と『さん』づけで呼ぶ。


俺は以前は『真琴』と下の名前でずっと呼んでいたのに、それがいつの間にか『奥川』に変わった。


「ま、彼女も、かわいいからねぇ」


そう言ってにやにやと笑うコイツが、俺はとにかく苦手だ。


庭木は俺より少し背の高いだけの男で、生徒会長なんかをやっているせいか、常に何かを勘違いしている。


「吉永も、気をつけた方がいいんじゃないの?」


そのセリフにカチンとは来ているが、大人な俺はそんなことでは動じない。


「お前さ、いっつもなんか、変なことばっかり言ってるよね」


これぐらいで抑えておいてやるから、いい加減自分で気づけよ。


言われた庭木は、一瞬ムッとした表情をみせたが、すぐに冷静さを装う。


「俺はお前のためにと思って言ってやってるんだけどね。まぁそれが分からないんだから、仕方ないけど」


ようやく校門が見えて来た。


俺は少し歩く速度を速めて、コイツとの距離をとる。


「じゃあな」


そう言ったら、庭木はこっちに手を振ってきた。


よく分からん。


やっぱり気持ち悪い奴だ。


俺はこれ以上奴と一緒になるのが嫌で、ワザと遠回りをして教室へと入った。

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