第4話

「名前は?」


「鹿島純です」


にっこりと微笑んで、彼は何もないクソださい理科室の中を歩き始めた。


「パソコンは、1台なんですか?」


「1台だからって、なにか文句でもあんのかよ」


コイツ、俺たちをバカにしてんのか。


「弱小部だから、予算がなくて」


俺の発言に、慌てて山崎が答えた。


俺は精一杯の引きつった笑顔を浮かべる。


失言だったことは分かっているけど、こんな頭良さそうなイケメン新入生、うちのような日陰のマイナー部になんて、どうせ入りやしない。


「情報処理のコンピューター室にいけば、もっとたくさんのパソコンが使えるんじゃないんですか?」


「あぁ、だけど、学校のパソコンはスペック低いから」


とっさにそう答えたものの、学校で使っているパソコンの機種なんて、全く記憶にない。


「学校のはネットに繋がってないから、意味ないんだよ。スクールネットにはもちろん繋がってるけど、先生たちに見られちゃう可能性はあるから。基本俺のポケットワイファイを使って、ここのはつなげてるんだ。パッド用のやつ」


山崎は、自分のポケットから小さなルーターを取りだして見せた。


「なるほど」


にっこりと笑う鹿島の態度が、イケメンかつお上品すぎて、余計に腹が立つ。


「冷やかしなら、帰れよ」


どうせバカにしてんだろ、さっさと帰れよ。


こんなくだらない部活なんて、どうでもいいと思ってるような奴に、つき合っているヒマなんかない。


俺がにらむと、彼は真っ赤な顔になって、おずおずと入部届けを取りだした。


「入部、する、つもりはあります」


小さく折りたたまれたそれには、きっちりとした丁寧な文字で、必要事項が全部書き込まれていた。


山崎が受け取る。


「うおっ、マジで? やったな」


俺は即座にそれを奪い取った。


「今はまだ仮入部の期間だから、その間にどうするのか、よく考えてから決めてほしいね」


変に期待させておいて、やっぱりやめましただけは、ゴメンこうむりたい。


「はい。あの、あのロケット、かっこよかったです」


ややうつむき加減のまま、まだ顔の赤い鹿島は、そうつぶやいた。


制服の袖から伸びた白く形の整った手を、ぎゅっと握りしめる。


「失礼しました」


それでも彼は、大人しく教室から出て行った。


扉がきっちりと閉まるのを見届けてから、俺はようやく息を吐き出す。


「やっと帰ってくれたな」


これで一安心。


あいつはもう二度と、ここへは来ないだろう。

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