第5話
「入ってくれたら、いいのにな」
山崎がつぶやいた。
「は? 何言ってんだよ、お前」
「えっ、なんで?」
この男は入部届けを手に取ると、じっくりとそれに目を通した。
「いい奴っぽいし、楽しみだな」
「それ本気で言ってる?」
俺は倒れ込むように、テーブルの上に体を伸ばした。
気疲れのするような後輩なんてゴメンだ。
いままで通り、のんびり気楽に部活ライフを謳歌したい。
「もっと素直で扱いやすそうな奴がいいな。かわいい女の子とかさ」
「女子は無理だろ」
そんな明るく楽しい未来は、俺たちには、ない。
「あいつ絶対性格悪いって」
「そんなの、入ってみないと分かんないだろ」
山崎は入部届けを、ファイルに挟んだ。
「そのための仮入部だろ?」
「そのための仮入部だよ」
着信音が鳴って、奥川から画像が送られてきた。
俺と山崎の、二人だけの写真だ。
「あ、やっと送ってきたよ。ちゃんと管理しとけだってさ」
それを転送で部のパソコンに送る。
山崎がそれをアップして、今日の活動は終了だ。
のんびりと背を伸ばす。
「本気で部の活動内容、考えないとな」
「別にいいよ、このままで」
どうせ内申書に書くためだけの部活だ。
帰宅部だと空欄が埋まらない。
俺たちの三年間を、なかったことにしないためだけの処置だ。
そんな部に、特に活動とか必要ないだろ。
このままここでこうやって、自由な時間が好きなように過ごせれば、それでいい。
俺はその日までは、真剣にそう考えていた。
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