第12話

「お待ちなさい! イクセル殿、フェリシア・ベレスフォードは我が国の重要人物です。そのような勝手は困ります」


あまりの騒ぎに、傍観者に徹していた王妃が口をはさんだ。しかしそれを黙らせてしまったのはイクセル様だった。


「勝手? 勝手はどちらだ。フェリシア嬢を自分たちの都合のいいように使い、王太子の婚約者である彼女を大切にせず、それどころか王太子の恋人の存在を認める始末。こんなにも酷い扱いを受けている彼女を、国の重要人物だと……笑わせるなよ」


私を庇うように背に隠してくれているイクセル様、その背からはとてつもない怒気が感じられる。ここまで怒っているのを私は見たことがない。


「彼女を重要人物だというのならば、それらしい扱いをするべきだったのではないか。ここにいる周辺国からの客人は、彼女の置かれている状況に腹を立てている。それの意味することが分からないほどではないだろう」


まっすぐと王妃と国王を見つめて立ち向かうイクセル様の言葉は強く、少し心が穏やかになる。今日、ここに招待されている周辺国からのお客様は、以前から私が外交でお話をさせてもらったことのある、優しい方々ばかり。


まさか、私の状況を知って怒ってくださっているとは思いもしなかったが、一人ではないのだということに気が付けて心強くなる。


「王妃殿、私も前々から思っていたのだがね……」


「ええ、わたくしもです……」


次々と上がる、お客様からの苦言。さすがに目に余るという言葉に王妃も国王も何も言えなくなったらしい、顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。


「お父さま、お母さま!! こんな奴ら殺してしまいましょう!!」


「王太子殿下はアホなのですか?」


国王と王妃が黙り込んだ理由を考えられない王太子は、とんでもないことを口走った。それを聞いて誰かが口を開く前に私は言葉を発した。


「なんだと!?」


「こちらに招待されている方々は、この国の大切なお客様です。それはこの国だけでなく、各国内でも重要な方々なのです。ということは、お客様はみな、各国の大使でもあります。それをなんと……なんと嘆かわしいことでしょう。そのようなことを言うなど、けして、あってはならないことです」


大使でもあるお客様を殺すなど、各国を敵に回して戦争をするのと同じだ。


「我が国は、貴国との外交を停止する。フェリシア嬢、一緒に行きましょう」


努めて冷静に言葉を発し、お客様方へ謝罪の言葉と礼をするが、私を見る目は優しく、王家を見る目は冷たい。口々に、私が謝ることはない、と伝えてくれる。


そして、イクセル様の言葉を皮切りに次々と断交を宣言していく大使の皆様。


「イクセル殿、娘を頼みます」


「お父さま……?」


「フェリシア、黙っていてすまない。イクセル殿に事の次第を聞きなさい。新しい屋敷で待っているよ」


最悪の形で夜会は終了し、国内の貴族たちも、ぞろぞろと帰り始める。国王一家だけは、茫然としていた。


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