第11話
王太子の婚約者として、完璧を求め続けられる日々も、本当は投げ出してしまいたい。そんな自分の心を制御して、鉄壁の微笑を浮かべて、完璧な姿を演じ続ける。
王太子に愛されなくても。
「久しぶりだな、フェリシア嬢」
「お久しぶりです、イクセル様」
「少し、痩せたか」
「えっ……そう、でしょうか……?」
「ああ、前から細かったが、今は風に飛ばされそうなほどに細くなっているぞ」
「ふふ、お上手ですね」
イクセル様と久しぶりに一緒になった、自国での夜会。たくさんの国内の貴族、諸外国の王侯貴族を招いた盛大な夜会だ。
相変わらず、王太子は恋人を連れており、このような正式な社交場でも婚約者である私を放置するなど、もはやどうしようもない。私で解決ができる範疇を超えてしまった。
「王太子は、相変わらずだな」
「申し訳ありません……」
「あなたが謝ることではない。あなたはよくやっている」
「あ、ありがとうございます……」
イクセル様と少し雑談を楽しんでいると、周囲が突然、ざわつき始めた。どうやら婚約者たる私を放置しておいて、他の女性を連れているのを咎めた人物がいるようだ。私が諫めるべきだったものを他者にさせてしまったと、焦りが強くなり、急いでその場に向かう。
「王太子殿下、これはどういうことですか」
「うるさいな、私が誰と参加しようが関係ないだろう」
人ごみをかき分けて中心部へ出れば、そこには父がいた。父は冷静に見えるが内心では怒り狂っているのが察せる。
「お父さま、申し訳ございません。王太子殿下より、本日の夜会は欠席するとお伺いしておりました……しかし、私の把握が甘かったようです」
「フェリシア……」
苦々しい表情を浮かべる父に、ここは引いてほしいことを視線で訴えかける。父は私を心配そうに見つめるが、どうやら通じたらしい。私の裁量に任せると一歩、後ろへ下がった。
「王太子殿下、欠席されるのではなかったのですか?」
嫌味たっぷりにいつもの微笑を浮かべて王太子へ向き直れば、面倒くさそうな表情を浮かべた。その姿に、ブツリ、と何かが切れる音がした。
今まで、家族のためだけに我慢してきたが、限界はとうの昔に来ていたらしい。なぜだか、この男のすべてが許せない。いつもなら興味のかけらすらないのに、一挙手一投足、すべてが目については怒りがこみあげてくる。
「あぁ、めんどくせぇな! お前とは婚約破棄だ!! 私の大切な恋人を虐めていたようだしな」
「は?」
渾身の一言だった。一体、何を言っているのかわからなかった。私は王太子の代わりに諸外国へ外交に行くことが多く、貴族の子息令嬢が通う学校へも通っていなかった。そもそも、その恋人とやらと接触したことなんて一度もない。
「貴殿の言葉通りなら、フェリシア嬢はもう婚約者ではないということだな」
「そうだ」
「そうか、では、フェリシア嬢。私と婚約していただけないだろうか」
何か言わなきゃ、そう思ってもうまく言葉が出てこない私の前に、人影ができた。私の前で跪いたのはイクセル様だ。そして、彼は婚約してほしいと、言った。
「えっ……」
あまりの急展開に、よくわからなくなってきた。事の発端は王太子が恋人を連れてきていて……それを父が怒って……それで……それで?
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