72 英語のお勉強

 夕食を終えて、僕が風呂から上がった時のこと。


「えっ」


 夕食の後片付けを終えていた遥花が、リビングの床に座り込んで、何やらベロを動かしていた。


「あ、幸雄。もう上がったの?」


「う、うん」


「一緒に入りたかったけど、ちょっと洗い物が多かったから」


「あはは……と言うか、何をしていたの?」


「英語の発音の練習だよ」


「ああ、なるほど。確か、舌の動きが大切なんだっけ?」


「うん、そうなの。あたしはハーフだけど、その辺りが全然できていないから。一から勉強しているんだ」


 よく見ると、テーブルの上に英語の教本が置かれていた。


「せっかくだし、僕も一緒にやろうかな」


「本当に? 嬉しいな」


 遥花は微笑む。


「じゃあ、LとRの発音の違いをやりましょう」


「あ、何か聞いたことある。日本人がよく間違えるんだよね?」


「そうそう。まずはLの発音ね」


 遥花は口を開く。


「日本語のらりるれろと間違えやすいんだって。日本は前歯の付け根くらいに舌をつけるんだけど、英語のLはしっかり前歯に付けるの」


「ふむふむ」


「そのまま、ゆっくり、らりるれろと言う。それがLの発音よ」


「へぇ、そうなんだ」


「じゃあ、あたしがお手本を見せるね?」


「うん」


 遥花は少したどたどしくも、舌をそのように構えて……


「ラリルレロ」


「あ、確かに英語っぽい発音だ」


「でしょ? ほら、幸雄も一緒に」


「えっと……ラリルレロ?」


「そう。ラリルレロ♡」


 遥花はニコリと笑う。


「よく出来ました。じゃあ、次はRの発音ね」


「はい」


「これは舌をどこにも当てないの。口の形は少し開く感じ。それで、舌を喉の奥に引っ張るイメージだって」


「なるほど」


「じゃあ、またお手本を見せるね」


 遥花はまた口の形を変えて、


「ル、ル、ル……」


 声を出す。


「ちょっと苦しそうだね」


「うん、慣れない内にはね。じゃあ、もう一度やるよ」


 遥花はそう言って、


「ル、ル、ル……んっ……あっ」


「えっ?」


「ご、ごめんね。ちょっとおかしくなっちゃった」


「あ、うん。何か最後の方がちょっとエッチだったから」


「やだもう♡ そう言う幸雄こそエッチなの♡」


「ご、ごめんなさい」


 なぜか僕は謝ってしまう。


「ほら、幸雄も一緒に」


「あ、はい。えっと……ル、ル、ル」


「そう、上手。ル、ル、ル……んっ、あっ、はっ」


「は、遥花さん?」


「んあっ……ごめんね。またちょっと、おかしくなっちゃった♡」


「た、頼みますよ、遥花先生」


「りょーかい♡ じゃあ、次に行くよ?」


「あ、はい」


「thの発音はね、舌を出すの。こんな感じで……」


 遥花は歯の隙間から舌を出す。


「ス、ス、ス……こんな感じ」


「へ、へぇ~」


 僕は遥花のベロをじろじろ見てしまう。


「もうちょっと、お手本を見せようか」


「そ、そうだね」


「ス、ス、ス……んっ、はっ」


「は、遥花さん?」


「ごめんね。ちなみに、このthは有声と無声があるの。今やったのは有声で、もう一つの無声はこうやって……」


 遥花はまた舌を動かし、


「スーッ……って息を吐き出す感じ」


「へぇ」


「もう一度ね? スーッ……」


 遥花はまたお手本を示してくれるけど、


「……んっ、あっ」


 エッチな声が漏れてしまう。


「あの、遥花さん。大丈夫?」


「はぁ、はぁ……ダメね、やっぱり。もっと、舌を鍛えないと」


 そう言って、遥花は僕を見つめて来る。


 その目が、トロンとしていた。


「は、遥花……さん?」


「ねぇ、幸雄……」


 そのまま、遥花は僕と唇を重ねた。


 そして、いつもより激しめに、舌を絡ませて来る。


 僕は情けなくも、彼女に身を、舌先を委ねてしまう。


「ぷはっ……こうすれば、英語のために舌を鍛えられるし、幸雄ともイチャラブ出来ちゃう。正に一石二鳥ね」


「結局、遥花はエッチな子なんだね」


「今さらでしょ? 嫌い?」


「いや、堪らないよ。もっとしようか?」


「あん、素敵よダーリン♡」


 僕と遥花はまたキスをする。


 今度は僕の方からも積極的に舌を動かす。


 ここ最近、英語の発音で鍛えられているせいか、遥花の舌先の動きは凄い。


 僕も負けじと、さらに動かす。


 すると……


「……んああぁ……ゆ、幸雄……すごすぎぃ」


 いつの間にか、遥花が僕の腕の中でクタッとして、トロトロになっていた。


「ご、ごめん。やり過ぎた」


「ううん、良いの……ねえ、ベッドに行こ?」


「でも、遥花はお風呂に入っていないでしょ? 良いの?」


「思い切り汗をかいてから、また二人で入ろ?」


「良いね、そうしようか」


 この後、メチャクチャった。







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る