59 新生活はラブラブな家具選びから♡

 春休み。


 他のみんなは遊んでいるだろうこの時に、僕と遥花は色々バタバタしていた。


「うわぁ……こんなに広い部屋なの?」


 遥花の両親が用意してくれたと言うその新居は、僕の予想を超えて豪華だった。


「うん。あたしが愛しのダーリンと暮らすって言ったら、パパとママも奮発してくれたの」


「いや、本当に申し訳ないよ。まだ、一度も会えたことないし」


「あ、パパから伝言でね、『今はまだ仕事が忙しくて会えないが、近い将来に会おう。未来の俺の息子よ☆』……だってさ」


「お、お義父さ~ん!」


 僕は遠く海の向こうにいるそのお方を想像して叫んだ。


「ていうか、幸雄の親もよく許してくれたね。さすがに同居はちょっと無理かなって思ったけど」


「ああ、うん。二つ返事だったよ。それから、僕の父さんからも伝言で、『すまん、遥花ちゃんが家に遊びに来るたびに、そのボインすぎる胸ばかり見てしまった、許してくれ!』……だって」


「いやん、お義父さまったら♡」


「ごめん、セクハラ親父で」


「愛するダーリンのお義父さまだから平気よ♡ あ、でも本当にエッチなことをされたら、さすがに怒っちゃうけどね。だって、このカラダは幸雄だけのモノだから……きゃっ、言っちゃった♡」


「は、遥花さん……初っ端から甘すぎるよ」


「えへへ♡ 幸雄、出掛けましょう」


「うん。今日は家具を見に行くんだっけ?」


「そうだよ。それが無いと、生活が始まらないもん」


「だね。テレビとかテーブルとか……」


「何より、ベッドが無いとね♡ それが無いと、あたし達のラブラブ生活が始まらないの♡」


「あ、あはは……行こうか」


「うん♡」




      ◇




 僕はてっきり、一般的な家具屋に行くものだと思っていたんだけど……」


「いらっしゃいませ」


 目の前には、高級なスーツを纏ったいかにもデキる感じの店員さんがいた。


 そして、店内外も非常に高級感が漂っている。


「……あの、遥花さん。ここは?」


 いつものラフなTシャツGパン姿ではない、いつぞやにも纏った清楚系ファッションの彼女に問いかける。


「パパの知り合いが経営しているお店よ。今日はここで、家具を選ぶの」


「そ、そんなに高級志向なの? 前に住んでいたアパートとの差がすごいんだけど」


「あのアパートはあたしの希望よ。本当は、もっと良い所に住まされる予定だったんだけど。安い畳のアパートで、彼氏とイチャラブするのが夢だったんだ♡」


「そ、そっか。けど、あまり高級な家具だと落ち着かないかも」


「大丈夫よ。高級って言っても、見た目がそんな派手なのばかりじゃないから。高級っていうことは、品質が良いから。長く使えるのよ」


「長く……」


「そう、ずっと、長く……幸雄と繋がっていたいな♡」


「最後の一言が……」


「何よ、文句あるの?」


「いや、ないです。遥花は最高に可愛いからね」


「嬉しい♡」


 遥花は微笑み、


「じゃあ、選ぼう」


 僕の手を引っ張った。




      ◇




 時折、デキる店員さんのアドバイスをいただきながら、僕と遥花は家具を選んで行った。


「ここまで結構スムーズに決められたね」


「うん。だって、一番大事なモノを決めるのに時間を掛けたかったから」


「え、一番大事なモノって?」


「家を出る時にも言ったでしょ? ベッドだよ♡」


「あ、ああ。そうだね」


 僕は遥花と一緒にベッドコーナーにやって来た。


「そういえば、今さらだけど。他にお客さんが居ないよね。店員さんも、一人しか見ていないし……」


「うん、今日はパパが貸し切りにしてくれたの」


「えっ?」


「だって、二人にとって大事なベッドを選ぶ訳だから……」


 ふいに、僕は遥花の手でベッドに押し倒される。


 ぼふっ、と心地良い感触がした。


 さすがは高級品……じゃなくて!


「ていうか、遥花さん!? 何で脱ぎ始めているの!?」


「大丈夫、ちゃんと許可はもらっているから」


「いや、許可とか、そういう問題じゃなくて……」


「つべこべ言わないの♡」


 すっかり肉食モードの遥花は、ぺろりと舌なめずりをする。


「やっぱりベッドの感触は、実際に使ってみないと分からないよね♡」


「は、遥花さん……マジですか?」


「大マジよ♡」


「あの、万が一、ベッドを壊しちゃったら……」


「大丈夫、高級品はそう簡単に壊れないわよ。むしろ壊したら、幸雄はすごい男よ♡」


「すごく複雑な気持ちだ」


「ほらほら、幸雄も脱ぎなさ~い!」


「え~!?」




 その後、ベッドが大いに軋む度に、僕はとても不安な気持ちになった。




「じゃあ、このベッドにしまーす♡」


「お買い上げありがとうございます、遥花お嬢様」


「お嬢様!?」


「えへへ♡」


 僕はまた、遥花の新たな一面を知ってしまった。







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