56 また、この二つの巨大な山をどうやって攻略するか……
学園のみんながウキウキ、ソワソワとする冬の一大イベント。
バレンタインがやって来た。
「ちくしょ~、何で誰も俺にチョコをくれないんだ~!」
秀彦が頭を抱えて唸っていた。
「ドンマイ」
「ちっ、このリア充が。お前は橘さんからもらえるから良いよな~」
「まあ、まだもらっていないけど」
「えっ、何々? もしかして、別れの危機とか?」
秀彦はちょっと嬉しそうに言う。
「そんなことないもん」
すると、遥花がぷくっと頬を膨らませて言う。
「幸雄には……後でお家に帰ったら、たっぷりとチョコをあげるからね♡」
「うん、楽しみにしているよ」
「ついでに、あたしも……何ちゃって♡」
「コオオオオオォ……」
秀彦がムンクみたいな顔になって倒れた。
「じゃあ、帰ろうか。またな、秀彦」
「バイバイ、藤堂くん」
「コオオオオォ……」
◇
遥花は普段から料理をしているから、手作りのチョコレートが楽しみだった。
「ちょっと待っていてね♡」
「うん」
僕は茶の間で正座をして待つ。
遥花は冷蔵庫に向かった。
そして、何やらカチャカチャと音を立てて戻って来る。
「ジャーン! お待たせ~!」
僕の目の前に置かれたのは、とても大きなチョコケーキだった。
しかも、二つの巨大な山がそびえ立っていて。
あれ、前にもこんな光景を見たような……
「えへへ~、あたしのおっぱいを模した『おっぱいチョコケーキ』だよ♡」
「……軽く糖尿病になりそうだな。甘すぎて」
「大丈夫だよ♡」
遥花は笑顔で言ってくれる。
「はい、ナイフとフォークを用意したから」
「何か斬新すぎるな……」
以前の巨大なおっぱいオムライスにも勝るとも劣らないその迫力を前に、僕はたじろいでしまう。
「ほら、早くしないと溶けちゃうよ?」
「そ、そうだね」
僕は意を決してナイフとフォークを手に持った。
そして、ちょっと申し訳ないと思いつつ、そのチョコケーキにナイフを入れた。
「あっ……」
「えっ?」
突如、嫌らしい声を出した遥花を見て、僕はハッとする。
そういえば、前回のオムライスの時も、遥花とそれが連動していて……
「まさか、今回も同じシステム?」
「はぁ、はぁ……幸雄、遠慮しないで食べて?」
「あ、うん」
僕は若干、冷や汗を垂らしながら、チョコケーキを食べた。
「あんっ!……はぁ、はぁ、すごい」
「な、何が?」
「何でもないの……続けて?」
激しく食べにくいです。
でもきっと、遥花は僕のために一生懸命、このおっぱいチョコケーキを作ってくれたんだ。
だから……
「んっ、あっ……そう、もっと……あんっ……食べて?」
僕はなるべく無心を心掛けていた。
「ね、ねえ、幸雄……あたしのおっぱい、美味しい?」
「チョ、チョコケーキ、美味しいです」
「もう♡」
ニコニコする遥花から目を背け、僕はひたすらにチョコケーキを頬張る。
「あっ……すごい……愛しのダーリンがあたしのおっぱいをこんなに食べて……もう食いしん坊さんなんだから……あんっ♡」
「は、遥花さん。何だかもうお腹いっぱいなんだけど」
「えっ、もう? まだいっぱい残っているよ? あたしのおっぱい」
「そ、そうだね……あ、遥花も一緒に食べる?」
「う~ん……そうだね♡」
遥花は僕のそばに寄って来た。
「はい、あーん」
「あーん……」
パクッ。
「んああああああああああああああぁん!」
「えぇ~!?」
「はぁ、はぁ……ご、ごめんね、大きな声が出ちゃった」
「ぼ、僕は良いけど……また山本さんが」
「大丈夫、この前会った時に『何かもう、良いよ』って言われたから」
「もはやあきらめの境地とか……後で山本さんに菓子折りを持って行こう」
「ねえ、幸雄。もっと一緒に食べよ?」
「あ、うん」
パクッ。
「んああああああああああああぁん! も、もうダメなのおおおおおおおおぉ!」
「僕の方がダメになりそうだよ!」
「はぁ、はぁ……幸雄のエッチ♡」
「いや、それは遥花の方だから」
「幸雄の方がエッチだもん」
「遥花だよ」
「幸雄なの」
そう言って、遥花は半ば無理やり僕の口にチョコケーキを突っ込む。
「むぐっ!?」
「あああああああぁん!」
「……ぷはっ。もう、メチャクチャじゃないか。山本さんも呆れる訳だよ」
「何よ、山本さん、山本さんって。確かに、山本さんは美人なお姉さんだけど……まさか、浮気するつもり?」
「いや、違うから。僕には遥花だけだよ」
「本当に? じゃあ、もっとあたしのおっぱい食べて♡」
「だから、チョコケーキね」
それからも、下らないやり取りをしつつ、二人で何とかおっぱいチョコケーキを完食した。
「じゃあ、次はあたしを食べて♡」
「ごめん、ちょっと無理……うっぷ」
「そ、そんな~!」
勉強はちゃんとしている僕らだけど、人としての偏差値が段々と落ちている気がする今日この頃だった。
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